5


ネットじゃ買えないインディーズバンドのCDの棚を物色してると、ポンと肩を叩かれた。

「おートオルじゃん!こんなとこで会うの珍しくね?」
「あり、エミちゃん?おはよっす」
「はよー。つかエミちゃん言うな。俺には一郎っつー最高にクールな名前があんだからよ」

声をかけられて振り向けば、そこには俺よりも背の高い男がいた。
本城・エミーリオ・一郎さん――通称エミちゃんは、俺のモデル仲間の先輩だ。
肩に付くくらいの癖のある長い黒髪に、彫りの深い目鼻立ち、綺麗に整えた顎鬚。ちょっと垂れた目は淡い色合いをしてる。

折った袖に柄の入った濃い色のジャケットの下は白のランニングシャツだけど、引き締まった筋肉の乗った胸元とそこに揺れるごついネックレスが超セクシー。
イタリア系の血が入ってるらしいフェロモン垂れ流しの色男、それが一郎さんだ。
バイトの俺と違ってちゃんとした専属モデルで、面倒見がいいこの人には初期の頃からかなり世話になってる。

「一郎さんお疲れっす。買い物?」
「まーな。てかその美人、誰?トオルのダチ?」

一郎さんが俺の隣にいる紘人にさっそく目を付けて聞いてくる。
俺は笑いながら紘人の肩に片腕を回して、ぎゅっと抱いた。

「この人俺の彼氏なんで、ちょっかい出さないでくださいよー」
「と、透……!?」
「えっマジ!?お前いつの間にソッチになったわけ!?」

一郎さんがぎゃははと笑い声を上げる。結構な大声なのに全然下品な響きにならないのはすごい。

「マジかー意外だな!ね、きみ、トオル女癖わりーから気をつけなよ」
「変な事言わないでくださいよ。俺、超一途ですもん」
「よく言うぜ。なぁ美人さん、トオルに飽きたら俺に連絡ちょうだい?」

言いながら紘人にパチンと完璧なウィンクを送る一郎さんは本当にタチが悪い。それだけで大概の男も女もノックアウトだっつの。
苦笑しながらこの悪い男から紘人を隠す。
紘人はそういう色気に免疫なさそうだから、一郎さんのフェロモンは猛毒だ。

「エミちゃんそんなこと言ってぇ、ユキさんに言いつけますよー?」
「バッカ、美人を見たら問答無用で口説けって俺のDNAに刻まれてんの!」

馬鹿話に俺と一郎さんは互いに笑い合った。
こんな軽口は日常茶飯事だ。でも紘人は混乱したように目を白黒させてる。

「お前次の撮影参加だっけ?」
「はい、行きますよ」
「んじゃ、そん時に話じっくり聞かせろよ」
「ちょっとマジ勘弁してくださいよ」
「ははは!デート邪魔して悪かったな。じゃ、また」

ヒラヒラと片手を振りながら格好良く去っていく伊達男に、紘人がぽかんとその背中を見送ってる。

「ひーろと。なんで俺じゃなくて他のヤツ見てんの?」

冗談っぽく言ったつもりだけど紘人が怒りそうだったから、叱られる前に俺は肩を抱いていた手をぱっと離した。
何か言いたげに俺を見上げてくる深いブルーの瞳に一瞬見惚れる。

「まあいいや、これもう会計しちゃうから早く行こ?」

目当てのCDを見せて、俺はレジに向かった。
紘人も黙ってそのあとを着いてくる。


prev / next

←back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -