9


突然ハッとした。
考え事をしながらいつの間にか寝入っていたらしく、ブーブーという不快な振動音で目が覚めた。
硬いテーブルの上に置いておいたせいでバイブ音はやけに耳に響いた。
いつまでも振動が止まないので唸りながら手を伸ばす。
夜半にかかってくる電話はどう考えても親しい誰かだろうから、ディスプレイも見ずに着信に応じた。

「……もしもし」
『よお、紘人』

もしかしたら透かもしれないという考えはあっさりと否定された。電話越しでも低く艶のあるこの声は、司狼に間違いない。

「ああ、司狼か……」
『なんだよ、もう寝てたのか?まあいい。明日ちょっと会えねえか』
「は?」
『お前、この前俺の家にハンカチ忘れてっただろ。取りに来いよ』

ハンカチ?そういえばなかったような気がする。だが、なくても今のところ不便なことは何もなかったので必要もないということだ。
そもそもハンカチの替えなどいくらもある。

「いや、いい、捨ててくれ……。別に……」
『お前が来ないんなら俺がお前の家に行くぞ』

以前ならその提案にも頷いただろうが、微妙な関係になっている今は、とてもじゃないが家に彼を招き入れたくない。思わず唸り声が出る。

「……わかった、明日取りに行く。この前と同じ場所でいいか」
『同じ場所?俺の家だろ』
「違う、きみの家じゃない。飲んだ店のほう――」

またあいつの家に行くだなんて、全く気が進まない。だから先日二次会で行った店に、と言いかけたその時スマホがするりと手から抜け落ちた。
寝惚けて落としたのかと思ったら、そうではなかった。電話の行方を捜したその先には、透がいた。

いつからいたのか分からないが、透はベッドの傍に立っていて僕のスマホを持っている。
返してくれと言う前に通話が切れてしまったようだったので、あとでかけ直せばいいかと呑気に考えた。どうせ相手は司狼だ。

「なんだ、帰ってたのか透」

起き上がって声をかけてみても、透は無言だった。
返答がないことを不思議に思いつつ改めて透を見上げてみたら、彼の表情は硬かった。

「透?」

返答はない。しかしその代わりにスマホがシーツの上に乱暴に投げられた。
僕がぽかんとしている間に透は上着を脱いで上半身裸になると、いつも嵌めているお洒落な指輪やブレスレットを全てはずして床に叩きつけるように投げ捨てた。
アクセサリーや靴、帽子など服飾類を大事にしている彼がそれらを粗末に扱ったことにまず驚いた。
そうして驚いているうちに僕はベッドに押し倒されたのだった。

「と、透?」

何が起こっているのか分からずに困惑していると、唇に噛み付かれた。
本当に噛み付かれるという表現そのままに唇に歯を立てられる。噛んで、吸われ、軽い痛みを伴うキスだった。
びっくりして透の体を押し返す。しかし離れてはくれない。

「あの、どうしたん、だ、急に……。いつ帰って――」

キスの合間に切れ切れに疑問を口にしてみても返答は得られなかった。
戸惑う僕を乱暴にうつ伏せにさせる透。そうされたと思った途端、急に首に鋭い痛みが走った。

「痛っ……!」
「ん……」

うなじに噛み付かれたのだと分かって思わず声が上がる。そのまま何度か肩口のあたりにも歯を立てられた。確実に歯形がついていると思われる痛みだ。
その痛みに気をとられているうちに、いつの間にか僕の下半身が露出していて、尻を直に撫でられた。
そして、撫でる手は前のほうに移動し――。

「透、ま、待ってくれ!あの……っ」
「黙って」

ようやく透の声がしたと思えば、それは聞いたこともないような冷たい声音で、背筋がぞくりとした。
そのせいか全身が固まってしまって、透の強引な愛撫を受け入れることしか出来なかった。
ペニスを巧みな手つきで擦られると否応なく反応してしまう。そうなってしまえば浅ましい僕の身体は透の愛撫を貪欲に欲した。
アナルにローションが塗り込められると、そこが期待にきゅっと窄まる。

もともと今夜はしたいと思っていたんだ。こんな風にしなくとも、僕はそのつもりでいた。
拒みはしない。だから、ちゃんと向き合って愛し合いたい。透にそう伝えたくて必死だった。


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