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三次会は司狼の自宅で行うことになった。

司狼は自宅が職場でもあるので人の出入りに抵抗はないようで、ホームパーティーのような催しにも慣れている。
もちろん明日に備えて帰ってしまうメンバーが大半だったが、僕は当然のように三次会メンバーに入れられていた。
七人ほどになった内輪の男性は皆独身だ。二階堂も、斎藤もいる。斎藤は結婚前の羽目はずしといったところだろうか。

司狼の家には良い酒が揃っている。僕はそれほど種類にこだわりはないが、彼はウイスキーを好んで飲むので年代物のいいのが置かれているのだ。
それを味わっていると司狼が新しいボトル片手に僕を庭に誘った。秋になったばかりで少し肌寒いが、酒で火照った体にはちょうどいい冷風だった。

テーブルセットに腰を落ち着けて司狼と改めてグラスを合わせた。
こうして膝を突き合わせて飲むことは、少し前まではよくやっていたが実に久しぶりだった。

「悪かったな、家まで押しかけて」
「そんぐらい慣れてるさ。お前、まだ飲み足りなかっただろ?」

見抜かれていたことに苦笑が漏れた。
自宅で一人じっくり飲むのと人と酌み交わすのでは趣が違う。たまの機会を逃すのも惜しく思えたのだ。

「なぁ紘人、あのガキとはまだ会ってんのか?」
「え?」
「たしか、秋葉とかいったか」

司狼の口から、透の名前が出てきてどきりとする。

「……だとしたら、どうだっていうんだ」
「ふん、ああいう手合いはすぐに飽きると思ったんだがな。図々しいガキだ」
「彼を悪く言わないでくれないか」

恋人をそんな風に言われるとさすがに気分を害する。すると司狼も同じように不愉快そうな表情になった。さらにじとりと半眼で睨まれたものだから、飲んでいた酒の味が途端に不味く感じた。

「やけにかばうな」
「僕の、ゆ、友人だから」
「……前から聞きたかったんだが、あのガキと何が縁で知り合ったんだ?」
「それは……僕が、失態を犯して」
「ああ、だから異様に懐いてんのか。あいつに借りがあるってわけだ」

借り――そうなのかもしれない。たしかに始まりはそうだった。
だが今は違う。互いに情を交わしたかけがえのないパートナーなのだ。

「お前、気に入ったヤツには妙に依存する癖があるからな」
「そんなこときみに関係ないだろ」
「あるさ。お前が変なヤツに引っかかりそうなのを見過ごせねえよ」
「な、なんのことだ」
「惚れてるヤツの身辺が気にならないわけねえだろ」

もうその話は終わったものだと思っていたのに、なぜここでまた蒸し返すのだろうか。
すっかり飲む気を失くした酒のグラスを置いて司狼を見やると、熱っぽい瞳と視線が合った。

「……なあ、そろそろ返事を聞かせろよ」
「は?」
「この前は話を中断されちまっておあずけ食らってたんだ。そろそろ頃合だろ」
「いや、僕はもう、そのことは……」

司狼の言っていることが僕の中の認識と食い違っていて動揺した。
ガラス窓を隔てた向こう側には友人たちもいて、こんな話を聞かれたくないという思いもあり、反応が鈍ってしまった。

「こ、断った、はず、だ……」
「俺はな、何年もずっとお前だけを想ってきたんだ。はいそうですかなんて諦めらんねえよ。だから今からでも考えてくれ。後悔はさせねえから」
「僕は――」

僕にはもう、透という恋人がいる。そもそも司狼は僕の中で対象外で、何度口説かれようとぴくりともなびかない。
そうきっぱり言えればよかった。なのに言葉に詰まってしまったのだ。それをどう勘違いしたのか、司狼は深い溜め息とともに僕のかつての婚約者の名前を出してきた。

「瑞葉はもういないし帰ってこない。不毛な片思いはやめてそろそろ前を向けよ」
「不毛だなんて思ったことはないし、そもそも片思いでもない」
「俺にしてみりゃ同じことだ。――なぁ、紘人」
「……とにかく、無理だ」

これ以上話しても埒が明かないと思って腰を上げると、引き止めるように司狼が僕の手を掴んだ。

「司狼、いい加減にしてくれ!」
「聞けねえよ、紘人」

司狼の強引さは今に始まったことじゃない。けれど引き際の悪さは今までの彼にはなかったものだ。
キスをされたことや抱きしめられたことを思い出して鳥肌が立った。一方で透のぬくもりがひどく恋しくなる。
どちらも同性だというのに受ける感覚が全く違う。

「おーどうしたどうした、喧嘩かぁ?」

すっかり出来上がった赤ら顔で二階堂が庭に姿を見せた瞬間、僕は正直助かったと思った。
それを機に、司狼の家から慌てて退散したのだった。


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