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バスルームから出てきたばかりのその人は、本当に綺麗な少年だった。

僕のように異国の血が混じっているのだろうと思しき顔立ちだが、どちらかというと東洋人寄りで馴染み深く愛らしい。
しっとり濡れた髪は艶やかで、ぱちりとした瞳が大きい。そして透と同じように流行に敏感そうな垢抜けた空気を纏っている。

対して僕は――。そこでようやく自分の格好を思い出した。
寝起きのまま顔も洗わず、着替えもせず、慌ててやってきた僕はおよそ人前に出られるような格好ではなかった。おまけに子供のように透にしがみついている。
そんなみっともない姿を少年に笑われた気がして、忸怩たる思いで唇を噛んだ。

僕と少年を交互に見た透は引きつった笑みを浮かべながら、僕たちの間を取り持った。

「あー……その、紘人?昨夜電話で話したでしょ、バイトの後輩の天羽君。彼、未成年なのに仲間の誰かが酒飲ませて気分悪くしちゃってさ、それで俺の家に泊まらせたの。で、天羽君。この人は俺の恋人のー、松浦さん」
「そうなんですか……初めまして、松浦さん?」
「あ、ああ、どうも……」
「てか天羽君、彼、一般の社会人さんだからあんま他で言いふらさないでね?迷惑かかっちゃうから」
「はぁい」

明らかに僕を疎んでいる態度を感じて胸が悪くなった。
電話で少し喋っただけの初対面の人間にここまで嫌われるだなんて理不尽極まりない。
何故僕はここまで少年に疎まれているのか――それはきっと、透の存在が大きいのだろう。

この少年、天羽君は、おそらく透を好いている。
僕みたいに、透に格別の扱いしてほしいという欲を持った好意なのだろう。

天羽君が帰るというやり取りの間、僕は透を離さなかった。そうしなければならないような気がした。
けれど、僕の態度も大人気なかったことを反省する。
挨拶をしてくれた天羽君に対してきちんと向き合わずにそっけない返事をしただけとは、いち社会人として恥ずかしい行いだった。



天羽君がいなくなると、僕も透も肩の力を抜いた。
そうして僕がこんな時間からここに来た理由を告白するに至ったわけだが、事態はそれだけで収まらなかった。

僕の勘違いで疑ってしまったことを謝ると透は怒るどころかニヤニヤと笑ったのだった。
その流れで朝から淫らな行為に発展したはずが、思わぬことで中断されてしまう。

それは透宛ての電話だった。電話のあと突然床に這いつくばりだした透にびっくりする。
何をしているのかと問えば、どうやら天羽君が鍵を落としたらしくそれを探しているのだと説明された。
鍵は程なくして見つかったが、ふと、重大なことに気付いてしまった。

真っ赤なキーケースはベッドと壁の隙間に落ちていた。ということは、昨夜、天羽君は透のベッドで寝たのだ。
彼のベッドで、彼の匂いの染み付いたシーツに包まれて……そう考えると嫌で仕方なかった。

透は僕の恋人で、僕のものだと思っている。
傲慢な考えだと分かっているから口には出さないが、それでもそういう独占欲は人並みに持っているのだ。

好いた人が使っているベッドで眠るというのは嬉しく、胸が高鳴ることだ。それを天羽君が昨夜味わったのだということが気に障った。
そんな考えが顔に出てしまったらしく、透にはひどく気を遣わせてしまって再び猛省した。


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