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どう説明して良いのかわからなかったがなんとかそう伝えると、ジンイェンがあっさりと頷いた。

「俺、魔術のこと全然わかんないけどさ、もともと俺に使ったっていう特殊な術のせいでアンタは変なことになったんだよね?」
「……なんで、それ……」
「ロージィに聞いた。だからさ、術をかけた俺自身と交わって精だか魔力だかを取り戻したから、元に戻ったんじゃないの?」
「――なるほど」

一理ある。
エリオットの魔力と寿命は人一人の時間を強制的に止めた代償として吸われたが、その被術者には術の残滓が残っていた可能性がある。
ロウロウ一味の一件以来、ジンイェンはエリオットの魔術の影響を受けていたのではないか――。

エリオットはふと、昼間のロッカニア遺跡でのことを思い出した。
ジンイェンと体を寄せ合って眠るとじわじわと魔力が戻ってきたこと。
雷の精霊王を呼び出したときに打ち合わせなくジンイェンが仲間に「距離を取れ」と号令かけた時もそうだ。
過不足ない好機だったのは、エリオットの魔力に感応していたせいなのではないか。
メグと魔力交換を行ったときも、ジンイェンの奪うような口付けが供給したばかりの魔力を吸ってしまったのではないかと仮説を立てる。

おそらく術を介してエリオットとジンイェンは繋がっていたのだろう。もしも彼が魔法使だったら、エリオット並の大魔術を使えていたところだ。
時の魔法はそういう意味では半分成功し、半分失敗していたといえる。やはり禁呪と呼ばれる魔術は決して手を出すものではない。

「あれ……それじゃあアンタが俺に可愛くくっついてきたのって術のせい?」
「……無意識に自分の魔力に引き寄せられていたかもしれないな」
「うわーちょっとショック……」

両手で顔を覆いながら落ち込んでいるジンイェンに、エリオットは笑いながら軽くキスを落とした。

「でも僕は、その前からジンのことがたぶん好きだったよ」
「……本当?」
「きみがこの家を出て行ったとき、きみのことばかり考えていたから」
「……そうなの?」
「そもそも、きみのためじゃなければ禁呪になんて手を出したりしない」

自分のために危険を犯したエリオットを叱り付けたくもあり、嬉しくもあり――ジンイェンは顔を上げてエリオットの整った顔を見た。
エリオットが微笑みながら首を傾げている。

「ん?」
「……まあいっか。俺も、そのときからずっとアンタのこと好きだったから」
「そ、そうか……」
「……ね、エリオット?」
「なんだ?」
「奥さんのこと、聞かせて」

ジンイェンの突然のお願いにエリオットは動揺した。

「……なんで」
「俺、最初アンタのこといつまでも昔のこと引きずってて面倒くさいやつだなぁって思ってたんだよね」
「う……」
「でも今はさ、エリオットが真面目で誠実だからだってわかるよ」
「……融通が利かない性格なだけだ」
「はは、そーかもね。でも俺ね、アンタのそういう……亡くなった奥さんに一途なところもひっくるめて好きなんだ」

ジンイェンがエリオットに軽くキスを落とす。

「教えて、エリオット。俺が知らないエリオットのことが知りたい」
「…………」

エリオットはしばらく考え込んだが、やがて小さく口を開いた。
ぽつりぽつりとティアンヌのことを語っていく。

ジンイェンはそんなエリオットを優しい眼差しで見つめ、小さく相槌を打ちながら聞き入った。
エリオット少年が紡いだ、淡く切ない恋物語を――。




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