魔力交合


淑女を扱うかのようにジンイェンに横抱きにされたまま、エリオットは寝室のベッドまで運ばれた。
いくら体に力が入らない状態だからといってその扱いはないと断固固辞したが、上手く宥められ結局抵抗するのは諦めた。

柔らかいベッドに沈められながらジンイェンに胸元に口付けを何度も落とされ、エリオットはそのくすぐったさに体を捩った。
きれいに洗濯されたガウンは体にひっかかっているだけで二人ともほとんど裸も同然だ。

息を荒げたジンイェンに性急に体をまさぐられてエリオットは慌てて彼を押し止めた。

「ちょっ……ちょ、ま……待ってくれ!」
「ん、待たない……」
「でも、その、色々と準備って、ものが――」
「俺ここまで煽られて、そんなに我慢強くないから」
「は、話を、あっ……きいてくれ!」
「……なに」

ジンイェンが不機嫌な顔で行為を中断する。
エリオットははだけた襟元を震える指先でかき集めながら早口で説明をした。

「こ、これから魔力を分ける術をかけるから……普通の性交とは少し違うことを覚えておいてくれ」
「……りょーかい」
「あとその……ちょっと……僕がはしたないことになると思うが、あまり気にしないでほしい」
「ん?やらしく乱れちゃうってこと?」
「下世話な言い方をすれば、そうだ」
「えっ、それは嬉し……じゃなくて、魔力を分ける術ってそういうもんなの?」
「僕自身試したことはないが、そうなると聞いている」
「ふーん……?」

エリオットの言うことを理解したのかしていないのか、ジンイェンがニヤニヤと好色な笑みを浮かべる。

「それってさぁ、この方法じゃない普通の術でも気持ちいいってことある?」
「…………」
「あ、そー……」

一転、ジンイェンの瞳が冷たい光をもって細められる。メグとのことを思い返したのだろう。
不穏な空気を誤魔化すようにエリオットはベッドサイドのナイトテーブルに手を伸ばし、ガチャガチャと中を探った。

「あ、あと魔法使じゃないきみには、すごく負担がかかると、思う……」
「そうなんだ?」

魔力回復薬を取り出して口にする。術を行使する分だけでも回復しておかないとならない。
それを見てジンイェンが呑気につぶやいた。

「あー、潤滑油とかどうしよっか?料理用油でもいいかなぁ」
「…………ないことも、ない、が」
「……なんで持ってるの?」
「ま、魔術用の香油だ!」

つまらない嫉妬心を覗かせたジンイェンにエリオットは怒ったように言い返した。彼がこんなに嫉妬深い男だとは思わなかった。

「そこの……棚にあると思う」
「いいよ、俺が取ってくる」

ベッドから起き上がったジンイェンはエリオットの指示で香油を棚から取り出した。水を吸って湿ったガウンを脱ぎ捨てて再びベッドに戻ってくる。
香油は透き通ったほんのり薄緑色の液体で、ふたを開けると花のような甘い香りが部屋に広がった。

「貸してくれ。自分でやるから」
「ダメ。そんなつまんないこと言わないで俺にやらせて?」

そう言って香油を取り上げられる。
エリオットはジンイェンにこれからされることを思い、羞恥に頬を染めた。

「……もう、好きにしてくれ」
「うん、好きにする。……好きだよ、エリオット」
「……ジン」

ちゅ、とジンイェンがエリオットの手の甲に口付けを落としながら微笑んだ。それはこの先の情事を匂わせる、色気のある笑みだった。

誰かと肌を重ねるのは何年ぶりだろうか、とエリオットはぼんやり考えた。
エリオットは妻であるティアンヌとしか性経験がない。それも彼女の病や体調を慮って行為は数えるほどだった。
彼女を亡くして以来そういったことは意識的に避けてきたエリオットだが、気持ちを自覚した今、ジンイェンともっと深い繋がりがほしくてたまらなかった。
ぎこちない仕草で彼に口付ける。

「……あの、こんな切っ掛けで申し訳ないけど……でも、僕も、やっぱりきみが好き、だ……」
「エリオット……」
「ジンと、もっと触れ合いたい……」
「……うん」
「……僕、あまり経験がないから、ジンがっかりする、かも……」
「どうして?エリオットにがっかりすることなんて何もないよ」
「でも……本当に、緊張して、……正直に言えば怖い」
「俺も怖いよ。色々吹っ飛んじゃいそう」

エリオットは意識を集中させて掌になけなしの魔力を集めた。
魔力供給よりもっと強い、魔力交合の術の光が収束していく。
この術を本で読んだとき、まさか将来使うはめになるとは思わなかったとエリオットは信じられない思いでいた。

術の光は飴玉のようになり掌に転がった。それは鮮血を彷彿とさせる赤色をしている。
エリオットはそれを唇の間に挟み、そのままジンイェンに口付けた。

「ん……」

舌を絡めながら、互いに口内で玉を舐め転がす。それはやがて本当の飴玉のように二人の舌の上で小さくなり、溶けていった。
そうすると次第に体の奥から官能が呼び覚まされる。

「エリオット……」
「ジン……あ……」

ジンイェンの唇がエリオットの首筋を滑る。そのままガウンがすっかり脱がされ、ついにベッドの下に落とされた。




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