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彼は茶化したりしていない、真面目に聞いているのだ。
さすがのエリオットもそこまで鈍くない。きちんとその意味を察する。

ジンイェンはエリオットを性愛の対象として見ているのだと、そう言っているのだ。
ならばエリオットも彼の気持ちに対して曖昧に濁したりせず真っ当に向き合い、ずっと避けてきた答えを出すべきなのだろう。

「……ぼ、僕は……」
「…………」
「きみと僕とは、同性だ。そういうのは……やはり自然の営みから反するし、不道徳だと思ってる」
「……そう」
「でも、僕はジンと一緒にいると楽しいと思うし、きみに過剰に甘えている自覚は、ある……」

内心を吐露するエリオットが耳まで真っ赤に染まる。今を逃したら絶対に口にできない言葉だろう。
ジンイェンも決して口を挟まずに真剣に聞いてくれている。そのことが、いつも言葉を飲み込んでしまうエリオットを素直にさせた。

「きみとキスをしたり、こうして裸で触れ合っても、嫌悪感もない。正直に言うと、きみが他の女性といるのを見ると嫌な気持ちになってしまう……。こういうのを好きだというなら……そうだと、思う……」
「……エリオット」

穏やかだったティアンヌとの恋とは全く違う。
楽しくて、嬉しくて、時々苦しくて、頭に血が上ったり――ジンイェンにはひどく振り回されかき乱されてばかりだ。
ティアンヌとのときだってこんな気持ちにはならなかった。でも、人を想う気持ちが過去と同じである必要は全くないのだ。

「きみが……」
「ん?」
「きみがベヌの群れにやられそうになった時、僕は、怖かった」

エリオットはおずおずとジンイェンの肩に頬を寄せた。蒸気で温められた彼の体温が近くにある。

「きみを失うのが、怖かった――」

ジンイェンに不意に強く抱きしめられ、エリオットはひゅ、と息を詰めた。

「好きだよ、エリオット」
「……ジン……」
「好きだ……俺も、アンタを失くしたくない……」

ジンイェンが頬擦りをしながらエリオットの耳元で囁いた。
そしてエリオットはふと気付いた、寡夫の耳飾りがはずれている、と。
湯に浸かるのだから当たり前かもしれないが、それでもそのことによって憑き物が落ちたかのように感じた。


(ティアンヌ――。僕は、次の恋をしてもいいだろうか)

きみを懐かしく美しい思い出にして。



エリオットとジンイェンはどちらともなく瞳を閉じ、惹き合うように唇を重ねた。



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