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エリオットは重い腕を上げてジンイェンの濡れた髪を梳きながら頭を撫でた。
するとジンイェンが撫でるその手をはずし、指を絡ませながら強く握りこんできた。
「――あのさ、メグに聞いたんだけど……魔法使でなくても魔力――生命力?を分けられるんだってね」
余計なことを吹きこんだメグにエリオットは内心舌打ちをした。
魔法使同士の秘術、というよりは、ジンイェンにだけは知られたくなかったことだからだ。
「俺でもできるんでしょ?ね、教えて?」
「…………」
エリオットは頑なに黙り込んだ。しかしジンイェンがそれを解きほぐすように手を強く握りながら真剣な瞳で問うてくる。
もう誤魔化すのも気を揉むのにも疲れ、エリオットはやけくそ気味に言い捨てた。
「――魔力を与えるってことは、精を分け与えるってことだ」
「……つまり?」
「だからっ……、……文字通り精力ってことで……」
「あー……」
全てを言葉にせずとも色好みのジンイェンにはすぐに通じたようだった。
要するに性交をするということだ。女性の方が魔力が強いとされる所以がそこにある。
相手が魔法使ではなく、さらに同性同士でもそれは可能となるがあくまで外法だ。それをすれば互いの体に負担がかかることは避けられない。
体を深く繋げ、精を貰い受ける。ジンイェンがそれを実行するということは、つまりエリオットとセックスをするということだ。
「……なんかそれって、俺にとっては願ったりなんだけど?」
「は、はぁ?」
「え、なにその顔」
「……魔力を受け取る側だから、僕が女役にならないといけないんだが……」
「うん?」
「その……ジンは、いいのか?僕の……その、中に」
エリオットが言いづらそうにしているのは、男同士の性交は尻穴を使うのでそんなところに性器を挿入する不快感や抵抗はないかという意味だった。
その言い分にジンイェンが少し面食らう。
「や、むしろアンタのが大丈夫?って聞きたいんだけど……。女役って、精神的にも肉体的にもかなり負担じゃない?ていうかエリオット、俺がしちゃってもいいの?」
「……そっ、それは……」
エリオットは言葉を切って、それでも小さい声でぽつりと言った。
「ジンだから、……いい」
目を逸らしかなり照れているらしいエリオットに、胸を衝かれたジンイェンが深い深い溜息をついた。
「……きみは女性が好きなのに僕が男ですまないな」
エリオットのあさってな言葉にジンイェンは苦笑しながら肩をすくめた。
「はぁ、やっぱり分かってなかったんだ……。あのね?俺は男とキスなんかしないしセックスしたいとも思わない」
「だから女性が――」
「好きじゃなきゃ、しないよ」
「……ッ」
ジンイェンがそっとエリオットの両手を握る。そしてゆっくりと、しかしはっきりと言った。
「俺はね、アンタが――エリオットのことが好きなの」
「……ぅ……」
「エリオットは?」
真剣な瞳でジンイェンに真っ直ぐに見つめられ、エリオットは唾を飲み込んだ。
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