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ベリアーノに召集されようやく三人の生徒から解放されたエリオットは、ジンイェンの姿を見つけてホッとした。

「おかえりエリオット。なんだか魔法使のみんなで仲良くなったみたいだね?」
「はは……」

あれは仲良くなったというのだろうか。

魔法使の一人が教え子だったことを話しながら、現地へ運んでくれるらしい馬車へと向かった。
ギルドの紋が入った馬車は、狩猟者のために格安で貸し出しているらしい。幌がついていてなかなか立派だ。採取した鉱石を積むための荷台も引いている。

ひとつの馬車に12人、そのうちの2人は御者席に乗るのだという。
4人余るので、ぎゅうぎゅうに詰めて14人ずつ譲り合って乗り込むしかない。
帰りは荷台分重くなるので、数人は歩き、交代で馬車に乗るようにするらしい。

ジンイェンからその説明を聞いて狩猟者のタフさにエリオットは驚いた。

「まぁ、魔法使が体力ないのはみんな承知してるから。エリオットは行きも帰りも馬車に乗れるから安心しなよ」
「そ、そうか……」

話しながら奥から詰めてジンイェンの隣にエリオットが座る。
すると、エリオットに声がかけられた。メグだ。

「あ、あの……隣、いいですか……」
「ああ、どうぞ」
「ありがとう、ございます……」

彼女は小声で礼を言ってエリオットの隣にちょこんと腰を下ろした。メグの席は出入り口の傍、馬車の一番隅だ。小柄な彼女が席にうずもれる。
先刻の話し合いで多少なりとも心を開いてくれたらしい。
そんなメグにすかさずジンイェンが声をかける。

「ね、きみどこのパーティ?俺とは初めて会うよね?」
「ひぇっ!ああ、あの、あの……トゥギーさんの……パーティで……」
「ふぅん、トゥギーのね。俺はジンイェン。よろしくね」
「は、はひ……です……」

握手をしようと手を伸ばすジンイェンからメグがさっと目を逸らす。両手でぎゅっと杖を握り、座席の端に逃げるように寄った。

「あれ、俺嫌われちゃった?」
「ナンパみたいなことするからだろう」
「えー、自己紹介しただけなのに?」

心外、と言いながらジンイェンがニヤニヤと笑う。
おそらくその胡散臭い風体が駄目なのだとエリオットは思う。


ピィ、と出発の合図の笛が吹かれ、馬車がゆっくりと動き出した。



馬車は街を出て街道を進んでいった。天気も良く、暖かい。
乗り合った皆がそれぞれ情報交換などをしながら和やかに談笑していた。
その一方でエリオットは馬車に揺られながらうとうととしていた。

魔法使は失った魔力を回復するために多くの睡眠を必要とする。
通常時なら常人と同じ睡眠時間で事足りるが、今のエリオットは気を抜くととにかくすぐ眠くなる。

まぶたがすぅっと下りてきて、がくんと頭が落ちては慌てて目を覚ます。
それを繰り返しているうちにやがて隣に座っているメグの肩に頭を乗せてしまい、エリオットははっと覚醒して目元を擦った。

「あ、す、すまない……」
「い、いえ……」

メグが気にしてないという風に両手を振った。
目を開けて急いで姿勢を正すが、しばらくしてまたがくりと頭が落ちてメグの小さな肩に頭を乗せてしまう。

「……すまない、メグ」
「い、いいんです、よ……っ」

メグが頭を振りながら気弱な笑みを見せるのをぼんやりとした半眼で見つめる。
すると、急に肩を抱かれ逆側へ引き寄せられた。
ジンイェンのしっかりとした肩に頭を乗せられ、エリオットは彼にもたれかかる形になった。

「寝てたら?着いたら起こしてあげるからさ」
「……ん」

ジンイェンの薄荷と香草が混じったような爽やかで甘い体臭が心地良い。
エリオットは安心してそのままこくりこくりと舟をこぎ始めた。

無防備な寝顔をさらすエリオットを周りの仲間たちがちらちらと盗み見るので、ジンイェンは不敵な笑みを浮かべてそれらを牽制した。





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