5



メグは一人で噴水前のベンチに座りながらぼんやりと空を見ていた。

「メグ」
「ひゃっ!あ、あ、はい……なんです、か……!?」

エリオットが話しかけるとメグはビクンッと肩を震わせた。
落ち着かないと言いたげに俯いておさげをいじるのは彼女の癖らしい。

「ちょっと教えて欲しいんだ」
「えと、あの……わたしでよければ……」
「パーティでの魔法使の立ち位置や魔術を行使するタイミングなんだが」
「わ……わたし、の場合は、その……」

言いながらメグがメモ帳を肩掛け鞄の中から取り出す。小さな鉛筆がついている携帯メモ帳だ。

「あ、わたし……トロくてこうやって書かないと、わかんなくなっちゃう、から……その……」

聞いてもないことをぺらぺらと喋るのは、緊張しているせいだろう。
それでも初対面のエリオットに親切にしてくれる様は好ましかった。

メグに図説で説明してもらっていると、ベンチの前に誰かが立った。
エリオットが顔を上げるとそこには、黒と赤のローブを着込み、亜麻色の短い髪を逆立てた青年が立っていた。

「こんにちは!ヴィレノー先生、ですよね!?」
「えっと……きみは?」
「自分は魔法使第三等・一級魔術士、ヴィクトル・アルミーノです!一昨年フェノーザを卒業しました!」

ヴィクトルが白い頬を真っ赤に染めてピンと背筋を伸ばし、左手人差し指に嵌められた銅の指輪を見せながらはきはきと喋る。

「ああ、卒業生か」
「はい!何度か先生の実践学の講義を聞きました」
「そうか。元気でやっているようだな」
「あの……先生はギルド登録したんですか?」
「いや、臨時要員で」
「そ、そうなんですか……」

ヴィクトルががっくりと肩を落とす。そのあまりの落胆ぶりにエリオットは首を傾げた。

「その……狩猟者になったのなら今後も先生と一緒に狩りに行けるかと……」
「まさか。そんな暇はない」
「でも、また会えて嬉しいです」
「僕は狩りは初心者なんだ。よろしく頼む」

エリオットが微笑みながら手を伸ばすと、ヴィクトルは顔を真っ赤にしてその手を両手で握った。ヴィクトルが微かに震えている。

「よ、よ、よろしく、お願いします……」

エリオットは学内では決して笑ったりする方ではなかった。
ジンイェンと出会ってからずいぶんと丸くなったものだと自分自身に驚く。

「よかったらきみも僕に狩猟者のことを教えてくれないか」
「いえ、でも……」

ヴィクトルがメグをちらりと見る。メグはヴィクトルに注視されて少し後ずさった。

「……自分より、メグさんの方が高位ですし……」
「どうして?色々な視点から話を聞きたいんだ」
「えっと……じゃあもう一人呼んでもいいですか?一級魔導士のお話で、自分もあいつも勉強させてほしいんで」

エリオットはメグに視線でいいかと聞く。
メグは逃げてしまうかと思ったが、こくこくと頷いた。

「あ、わたしも……エリオットさんから色々と、お勉強させてもらいたい、です……」
「――なんだか授業みたいになってきたな」

思わず苦笑する。学校は休んだはずなのに結局同じことをするとは。

もう一人の魔法使はユージーンと名乗った。長い黒髪を束ねた背の高い男の一級魔術士だった。
ヴィクトルと同い年で、フェノーザの姉妹校<マグナ=グラージア>の卒業生だという。


結局時間が来るまで、エリオットは狩猟者のルールを教えてもらいながら三人に魔術の講義をする羽目になってしまった。





prev / next

←back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -