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「俺にやらせて?」
「…………」

ジンイェンが器用な手つきでくるくると素早く包帯を巻く。慣れた仕草だった。
ナイフで包帯の端を切り、留める。
そうしてからジンイェンは包帯に巻かれたエリオットの右手を救い上げ、軽く口付けた。

「できた」
「…………」

ジンイェンはやることがいちいち気障だ。エリオットはそのたびに動揺してしまう。今も耳が真っ赤になっているはずだ。
やんわりとジンイェンから手を離し逆の手で軽く包帯をさすった。

「あ……ありがとう」
「どういたしまして」

ジンイェンからスープを受け取り、一口飲む。温かいスープは、石に魔力と血を吸わせて冷えた体をあたためてくれた。

「美味しい……」
「エリオットはいつもそう言ってくれるね?」
「本当のことだから」
「うん、嬉しい」

その一言が料理人をやる気にさせるのだとジンイェンが笑う。その楽しげな様子にエリオットは頬が熱くなるのを感じた。
机の上に置かれた杖を見て、ジンイェンが感心したような声を上げる。

「そういえば俺、エリオットの魔術ってちゃんと見たことないや。この前すごいのは少し見たけど」
「あ、あれは、僕も必死で……ああいうのは普段、やらないから」
「俺もあの時ちょっと意識飛びかけてたし、ちゃんと見たかったな。残念」
「からかわないでくれ」
「はは。魔法使の魔術なんて今までたくさん見てきたけど、エリオットのはなんていうか……綺麗だった」
「あれが?かなり乱暴な術だったと思うが……」
「綺麗だったよ」

きっぱりと断言され、エリオットは思わず黙った。

そうやって口説くような真似はやめてほしい、と思う。付け上がってしまいそうだ。
ジンイェンが人よりも女性を好んでいるのはわかっている。そして逆に好かれていることも。


――ジンイェンが家を出て行った日、図書館帰りに彼が道を歩いているところを偶然見かけた時のことが脳裏に浮かんだ。
彼は美しい女性二人を両脇に並べて歩いていたのだ。
そのときは何の感慨もなく軽薄な奴だなと思っただけだったが、エリオットは今、それを思い出して胸を痛めた。

勘違いしていたのかもしれない。ジンイェンの優しさや、触れてくる手のあたたかさに。
正直に言って、翻弄するような言葉と誘うような仕草に振り回されている。
それがジンイェンの性質なのだと何度自分に言い聞かせても、触れ合った柔らかい唇を思い出しては胸が苦しくなる。

どういうつもりだと問い質したくなる衝動に駆られるが、それをするのも恐ろしく思えた。ジンイェンの温もりを手放したくなくて――。
曖昧なままのつかず離れずな今の関係が心地よくもあり、じれったくもある。

エリオットはジンイェンから顔を逸らし、杖を埃よけの革袋に片付けた。

「……そろそろ寝るよ。スープありがとう」
「……うん。おやすみ」

ジンイェンもそれ以上は何も言わず、部屋を出て行った。
エリオットは少しの胸の痛みを抱きながら明日へと思いを馳せた。





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