謹慎日


翌日エリオットはいつものように起床したが、謹慎中だったことを思い出してもう一度上掛けに潜り込んだ。完全にふて寝の状態だ。
しかし朝寝の様子を見に来たジンイェンの姿を見て、ホッと胸を撫で下ろした。

「エリオット起きてる?朝飯出来てるけど食べられる?」
「いらない……いや、食べる」

食べると言いつつぐずぐずといつまでも起き上がらない恋人を不審に思ったジンイェンがベッドの中を伺う。
エリオットは顔を覗き込んできた彼の腕を引っ張り、ベッドへと引き倒して唇を押し付けた。

「うわ、ちょっ……待っ……いや嬉しいんだけど、そういうことされると、俺、やばいから……!」
「……ジン……」

ぎゅうと目一杯の力で抱きついてくるエリオットの背をぽんぽんと叩いて、ジンイェンは嘆息した。

「そういや謹慎ってアンタ何したわけ?」
「…………」
「なんかあったんでしょ?」

真面目なエリオットが禁を犯す何かをしてしまったことを、ジンイェンは心配していた。
言えないことなのか言いたくないことなのか、どちらかは分からないが、エリオットの様子がいつもと違うのはやはり捨て置けなかった。

「……クロード、に」
「?」

エリオットの言葉に敬称がつけられていないことを疑問に思いながら、先を促す。

「……首を、絞められて」
「は!?」

聞き捨てならないとジンイェンは体を慌てて起こしてエリオットの肩を掴んだ。

「えっ、何で!?」
「……あの人は、僕のような同性が苦悶している様を見るのが好きな御仁なんだそうだ」
「うっわ……」

ジンイェンは忌々しげに舌打ちした。
一見思慮深そうなあの男はつまり嗜虐趣味の同性愛者だったのだ。それがよりによって愛しい恋人が標的にされたと知って苛立ちが募る。

「それで……とっさに魔術を使って……。校内で魔術の行使を禁じられている場所だったから、罰せられたんだ」
「そんなのエリオットは全然悪くないでしょ。なんか理不尽だなぁ」
「でも、あの場で全部本当のことを言ったらさすがに僕も耐えられなかったし、僕に対する寛大な裁量だったと思う」

フェリクスはその場で処することで、好奇の目からエリオットを遠ざけてくれたのだ。
しかし謹慎処分など品行方正に生きてきたエリオットの汚点でもある。

このことがエリオットを教授職に推薦したクラジット伯爵の耳に入れば、フェノーザ校から放逐され職を失うことになるかもしれない。
なにより、あの物腰柔らかく立派な青年が突然豹変した姿も、未だに悪い夢のようで信じられないほどなのだ。
堪らなくなってエリオットはジンイェンに抱きついた。

「ジン……ジン……」
「うん、そんな可愛く呼ばれたらさぁ……」

ジンイェンは困ったように苦笑した。
可愛らしく甘えてくる恋人に手も出せず耐えなければならないとは、なんという拷問だろうか。我慢すると誓った矢先に理性が崩壊寸前だ。



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