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偶然にも生き延び行き場をなくしたファーロンは、自身を誘拐した山賊一家に引き取られることになった。
もちろん初めはそのことに抵抗し、自分一人だけ残されたことの罪悪感や寂寥感に耐えられず何度も己で死のうとした。
一夜にして愛する家族を全て失い、さらに自分のせいで関係のない侍従や奉公人の少年を死に追いやってしまったのだ。そのことを後悔し、今もその傷は完全に癒えていない。
時々揺り返しが来てはひどく傷つき、そのたびにリーホァンや一家の仲間たちに宥められ段々と落ち着いていった。

「……憎しみとか悲しみってさ、続かないんだよね。親父や兄貴達と一緒にいるうちに、なんか俺、それでも図太く生きていこうって思ってさ……」

ファーロンの境遇を憐れんだ山賊の頭目に徐々に絆され、そこを自分の家とし生きていくと決意したのだ。
その時に頭目からジンイェン――『静炎』という新しい名を授かった。
紹・心・花龍がこの世から消えた瞬間だった。



ジンイェンを攫った山賊一家は汚い仕事のかたわら代々盗賊の育成も積極的に行っている組織だった。
頭目であるリーホァン直々に盗賊の技を手ほどきされ、ジンイェンは若くして一家の中でも腕利きの盗賊になった。
リーホァンはジンイェンを自分の息子のように可愛がった。一家の仲間達も彼を鍛え、学び合い、共に育っていった。

「自分で言うのもなんだけど、当時の俺ってすげーヤなガキだったと思うよ。きれいな服着て柔らかい布団でしか寝たことなかったから、ある日いきなり小汚い連中と雑魚寝とか無理でさ。
 増してや山賊や盗賊なんて下層の人間だって端から見下してたし、そのせいで生意気なこと言っては兄貴達によく殴られてた。
 おまけに飯も見たことない草とか変な色の茸とか出されて、しかもそれがめちゃくちゃ不味くてしょっちゅう腹壊してたよ。
 ……まあ、だから自分で飯作るようになって、おかげですっかり料理好きになっちゃったけどね?」

そしてそれから三年――13の頃に狩猟者になり、ジンイェンはヒノンとオルキアを行き来しながらそれを生業として今まで生きてきたのだ。
そんな生活の中、18歳になった頃リーホァンにシャオ家のその後のことを教えられた。

シャオ家を襲った賊は、国長に続く忠臣であり侯司――エリオットの知る貴族に当てはめるならば侯爵家にあたる――のシャオ家を蹂躙し壊滅させた咎で全員捕らえられ縛り首にされた。
その賊をけしかけたのはジンイェンの父親の兄、つまり伯父の仕業ではないかとのことだった。
リーホァンも自ら調べたのだが確たる証拠はついに出なかったとのことだ。証人となりそうな者が全員行方不明か謎の死を遂げていたからだ。

シャオ家の稼業は伯父に引き継がれ、今も存続している。
もしもジンイェンが生き残りの跡取りだと知れてしまえば、間違いなく伯父の差し金によって抹殺されると危惧し、リーホァンは必死にその存在を隠し通したのだ。

その頃にはジンイェンももうシャオ氏の跡取りとして返り咲くような気もなく、狩猟者として生計を立てていたこともあって豪族の生活に未練はなかった。
ただ、その時ふと思い出した当時強奪された家宝の龍の指輪は、せめて手元に置いておきたいとジンイェンは思ったのだ。

そこで出てきた龍の指輪の存在に、エリオットは驚嘆した。
エリオットとジンイェンを繋げる切っ掛けになった品だ――。

「……家宝?」
「そ。あんなボロボロの指輪がね。変でしょ?」

幼い頃父親から何度も見せられ、何があっても他の良からぬ者の手に渡すなと再三言われていた。
リーホァンには指輪のことは言わなかった。いい加減独り立ちしたい年頃だったし、一人でひそかに取り戻そうとしたのだ。

その行方を慎重に追い、ジョレット近郊に根を張っているロウロウ一味が所持していることを突き止めた。
約半年前にジョレット入りし、仕事の傍らその機会を伺っていた。
そしてついにロウロウ一味のアジトに潜入し盗んだまではいいが執拗に追い掛け回され、そうしてあの夜、国立図書館でエリオットと出会った。

ところが指輪の調査中は絶対に自分の出自を明かさないようかなり慎重にしていたはずが、ロウロウは知っていたのだ。

ジンイェンが何故ガラクタ同然の指輪を盗んだのか――否、欲しがったのか、ということを。
ファーロンのことを知っているのはリーホァン一家のなかでも限られた者だけだ。
そのことを疑問に思い、ジンイェンはあの一件以来ロウロウのことを調べていたのだ。
――そしてたどり着いたのが、先日首都で会っていた女楽士だ。

「調べたのはほんの数日だったしそんなに詳しいことは探れなかったけど、でも、俺の推測を交えた結論からいうと……ロウロウは、俺の家族を殺した賊の残党だ」

女楽士から聞いたのはロウロウの詳しい来歴だ。
それを聞いてジンイェンはようやく「繋がった」と思った。

ロウロウは当時ツェンビンと名乗っており、首都襲撃事件で偶然会った古参の盗賊仲間に聞いてみたところリーホァン一家にも出入りしていたけちな盗人でもあったことが分かった。
賊は全員縛り首にされたはずだったが、小物だったロウロウは上手く逃げたのだろうというのが、ジンイェンの推測だ。その時にシャオ家の家宝の指輪を持ち逃げしたと思われる。
そして北部を逃げ出し、オルキアの片隅で自分の一家を作り薄汚い野盗としてお山の大将を気取っていたというわけだ。



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