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かくして俺は、みんなの前でパンツ一丁になるという悲劇に見舞われた。いや、一応インナーTシャツは着たままだったけど。
男だらけの部活でよかった!それに、寒河江くんだって同じ目に遭っていると思えばこれくらい耐えてみせる!

ちなみに着付けは由井くんがやってくれた。
次期部長が着ればいいのに……と、ちょっとぼやいてみたが、由井くんは他人への着せ方を習ってきただけで、自分が着ることは端から想定していなかった模様。
この着物、たすき袴の提唱者である神林くんが着るのかと思っていたけれど、彼は揃いのクラTというユニフォームが実現したのでそれで満足したようだ。
じゃあ誰が着るかと一、二年の間で話し合って「部長に着せよう!」という意見で一致したらしい。自主性があるのはいいことだけど、その話し合い、俺も混ぜてほしかった!
というわけで、最初から俺は仮装決定だったそうだ。それならそうと俺に前もって言っておいてくれたら良かったのに。

俺、こういう不意打ちって腰が引けちゃってホント駄目なんだよ。見られても恥ずかしくないように心の準備とか新品パンツの準備とか色々あるのに。
まあサプライズは百歩譲っても、寒河江くんもこっそり教えてくれたっていいじゃないか。うぅ、なんてひどい彼氏なんだ……。
ていうか、それ以上に由井くんがこんな悪ふざけに加担するなんて思わなかった。
去年から抱いてきた由井くんに対するイメージが完全に崩れ去った。
いやしかし、あの寒河江くんと友達って時点でその素質はあったのかも?俺が知らなかっただけで。

それはさておき、袴は最終的にもう一着借りられたので、他に誰が着るかという話になったそうだ。
そこで、「宣伝用にすれば」と最初に言い出した寒河江くんに白羽の矢が立ったらしい。
そうでなくても部活中は寒河江くんの面倒を俺が見てるから、コンビというか、いわゆる師弟関係だとみんなには思われてるみたいだ。
だから特に揉めることなくこの人選に落ち着いたのだという。
着付けの間に、そんなネタばらしを由井くんやみんなから聞かされた。――って、うおぉ由井くん苦しい!そんなに帯締めないで中身が出る!

こんな感じで服を脱ぐところから俺がいちいち騒ぐから、みんなにその都度笑われた。でも、その笑い声につられてだんだん楽しくなってきてしまった。
俺もみんなも、今日はテンションがいつもよりおかしい。祭だからそうなるのも当然かもしれない。

そうして着付けに奮闘すること数十分、出来上がった和装・俺。
なんていうか……めっちゃ動きづらい。

「――ど、どうかな?ちゃんと着れてる?」
「はい!完璧です!」

そう褒めてくれたのは由井くんである。他のみんなも同じように頷いたから、少なくとも見苦しくはなってないみたいで安心した。
俺は、紺色の着物に鼠色の袴、白いたすき姿だった。寒河江くんと対でたすきが紅白なんておめでたいなぁ。
自分では見えないけど、どうなってるのかな。
首から下を眺めたり袴の横裾に手を入れてみたりしてみる。着物なんて七五三くらいしか着たことがないから珍しくてしょうがない。

「いーじゃないっすか部長ー!」
「そ、そう?」
「ほらほら、エーちゃんと並んでみてくださいって」

神林くんと須原くんが囃し立てるので、脱いでおいた上履きを履いて、他の子たちと一緒に俺の着付けを見ていた寒河江くんの隣に移動した。着崩れが怖いからすんごく歩きにくい。
寒河江くんに「似合いますよ」と笑顔を向けられて今度は俺が照れてしまった。
そうやって盛り上がってる最中、由井くんがポケットからスマホを取り出した。

「そうだ部長。おれの師匠に見せるんで、ちょっと写真撮らせてもらっていいですか?」
「えっ?なんで?」
「それ、師匠の着物なんですよ。螢山先生のお弟子さんに着せるって条件で貸してもらったんで」
「ど、どんな条件ですか……」

そういえば由井くんの書道の先生って、じいちゃんの書を敬愛していたとかなんとか言ってたなあ。
正式な弟子じゃないけど書に関するイロハを教わったのは本当のことだし、やっぱり俺は弟子ってことになるのか。

「あ、じゃあついでに俺のケータイでも撮ってくれる?記念記念!」
「いいですよ。貸してください」

いそいそと机の上のバッグから携帯端末を取り出すと、それを見た寒河江くんが「あ」と声を上げた。

「やっぱそれにしたんですか、スマホ」
「うん」
「見た中で一番気に入ってましたもんね、それ」

――初めての挿入エッチの翌日、バイトを休んだ寒河江くんと急遽デートをしたのは記憶に新しい。
そのデート中に、モバイルショップで彼と一緒に新しいケータイを見て回ったのだ。
本当は壊したものと同じような機種にするつもりだったけれど、寒河江くんからスマホの機能とか使い方を聞いているうちに、俺もそっちに変える気になった。
寒河江くんと俺の使っているキャリアは違うのだが、スマホの操作なんてどれも変わらないからと基本的な操作を教えてもらった。

家に帰ってから父さんと相談し、電話で母さんにスマホがほしいことを説明し、そうしてようやく昨日契約してきたばかりだ。
もちろん、寒河江くんとおそろいのゆるキャラストラップもしっかりつけてある。

昨夜のうちに練習したにもかかわらず今までボタン操作だったからタップ式にまだ慣れない。
もたつきながらもカメラアプリを起動して由井くんに渡し、寒河江くんと並んだ写真を撮ってもらった。
写真を見てようやく自分の姿を確認できた。
おお……俺、なかなかイケてるんじゃないか?なで肩のせいで若干たすきがずり落ちそうに見えるけど。背後に後輩たちがちゃっかり一緒に入り込んでるのは、この際気にしない。
新品スマホの画面を見ながらニヤニヤしていたら、小磯くんが俺の前で大仰に手を振った。

「はーい部長、もういいですか?」
「あっ、ごめんごめん。展示教室の確認に行くんだったね」
「いえいえ、それより部長と寒河江には重大な仕事があるんで」
「うん?」

小磯くんがいい笑顔のまま俺と寒河江くんの首に紐を掛けた。紐の先にぶら下がっているものを見たら、ダンボール製の首掛け式プラカードだった。
彼が書いたらしい筆の字で『作品展示中!』『書道パフォーマンス見に来てね!』という文言とともに、ご丁寧に場所や日時なんかが記されている。

「――てなわけで、二人で校内中歩いて書道部の宣伝してきてください!」

小磯くんの言葉で俺と寒河江くんは同時に顔を見合わせた。
まさかこんな形で、寒河江くんと文化祭デートができるとは思わなかった。


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