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ファミリーからカップルのデートスポットとして名高いアミューズメントパーク。
有名なだけあって人、人、人の群れ。夏休み真っ只中なせいか、その賑わいはもはやまともに歩けないほど。
遊園地なんて子供のとき父さんや友達と何回か行って以来だ。ここは、俺はもちろんだが寒河江くんも来るのは初めてなんだとか。
事前にどんなアトラクションがあるかホームページで確認してきたけれど、こんなに混んでるなら制覇とはいかなさそうだ。でも今日は彼氏としてデートだと思うと、この場所に立っているだけでもわくわくする。

「センパイどうします?」
「うーん、やっぱこの暑さだし急流ライドははずせないかな。水かぶりたい」
「じゃ、そこは確定で。あとは様子見ながらテキトーに行きますか」
「うん」

そうと決まれば、まずはチケットを買って急流ライドの列に並んだ。
こういうの、相手が女子だったらすごく気を遣うんだろうな。だけど寒河江くんだとこれだけの打ち合わせで済んじゃうだもん、楽だよなぁ。
それに彼はプランを臨機応変に組み立てるのが恐ろしく上手い。それに頼りっきりな俺ってのもどうかと思うが。
並んでる間もダラダラと喋っていたおかげか待ち時間はそれほど長く感じなかった。
水しぶきの上がる急流すべり型ライド。ようやく順番が来たと思ったら、俺たちはちょうど一番前の席に乗ることになった。

「――ていうかこれ、あんま落ちないやつだよね?」
「えっ今更?センパイから言い出したんじゃないすか。てか、コースター系平気なんじゃないんですか?」
「へ、平気なんだけど……落ちる直前の、あの『来るぞ来るぞ〜』っていう感じが慣れなくてさ……」
「あー分かります」

寒河江くんが隣で頷きながら笑う。その間にもじりじりと水の上を進むコースター。
途中で加速したと思ったら軽く落ちて、また進みがゆっくりになる。そして加速旋回しながらライドはだんだん上に上がって行き――。

「……ッ!!」

――きゃぁぁ!わぁぁぁ!という悲鳴とともに俺たちの乗っているライドが水の中に落ちた。
バシャーッと勢いよく上がる水しぶき。そして超笑ってる寒河江くん。俺はというと、ヒッと引きつった声が漏れただけで絶叫も出なかった。
待ち時間は長くても乗るのは数分だ。ライドが停止して降りるときも、寒河江くんは楽しそうにけらけら笑ったままだった。

「あーっ気持ちよかった!なんだ全然ぬるかったじゃないですか。センパイ、もっかい乗ります?」
「うぅ……一回でいいです……」

予想以上に落ちた。他のコースターより低いと思って安心してたのにすごい勢いで落ちた。まだ心臓がドキドキいってる。
足元のおぼつかない俺に、寒河江くんが心配そうな顔で腕を軽く掴んで支えてくれた。

「ちょっと大丈夫ですか?」
「う、うん、もう大丈夫」

ジェットコースターは、降りた直後はフラフラの放心状態になるけど、しばらくしてから「面白かった!」って気持ちになるのだ。何で時間差なのかは自分でもよく分からない。
怖いと思ったドキドキは次第に高揚感に変わった。

「次はちょっと休みましょーか。腹も減ったし」
「そうだね」

話しながら飲食できる場所まで移動して軽食を調達した。ドリンクは、この暑さでカップの表面にあっという間に水滴が浮きはじめた。
ちょうど良く屋外のベンチが空いたからそこに腰を落ち着けることができたけれど、止まったぶん暑さは増した気がする。駅で無料配布していたミニうちわでパタパタと顔周りを扇いだ。

「はー……あっつ……やっぱ夏休みのせいかすごい人だね」
「この時期どこも混んでますよね」
「寒河江くんのバイト先も忙しい?」
「んー……団体とかの貸し切り客が増えるんで、忙しいっていうよりいつもより面倒ですね」
「そうなんだ。ていうか聞いたことなかったけど何レストランなの?」

ちゅう、とストローからジュースを飲んだあとに、寒河江くんは言いにくそうに口を開いた。

「なんつーか……大雑把に言うと地中海料理?的な?」
「いやいやなんでそんな疑問形なの」
「何料理って聞かれると地中海風としか言いようがないんですよ。パスタとかパエリアとか……でもハンバーグやフライみたいな洋食もあるし分類がよく分かんないです」
「ふーん、種類がたくさんなんだ。いいなぁ、食べに行ってみたい」
「えっ、やですよ」

即答で断られて肩透かしを食った。
もしかして俺のような一般の高校生が入れないような高級レストランなのかな?そう聞くと首を振られた。

「自分が働いてるとこ見られたくないんで。そーゆーのなんか、恥ずかしいじゃないですか」
「そ、そうかな?そういうもん?」
「はい。とにかくイヤです」

寒河江くんが普段どういうところでバイトしてるのか俺はすごく気になるけど。
彼は時々頑固な一面がある。そういうときは押しても引いても意見は変わらないと分かってるからこっちが折れるしかない。残念だ。

「――で、次どうします?」
「そうだなぁ……屋内の何かにしようよ」
「んじゃ、お化け屋敷にでも行きます?」
「そ、それはちょっと……」
「あれ、ホラー系ダメでしたっけ?」
「お化けの人が追いかけてくるじゃん……怖いじゃん……」
「怖いポイントがそこですか」

なんだと?本当に怖いのは生きてる人間なんだぞ!作り物だけだったら……それでも怖いけど。あの雰囲気がもう怖い。そういう場所だから当たり前だけどさ。

「つーか寒河江くんは行きたいとこないの?」
「オレはどれでもいいですよ。センパイの行きたいとこ付き合うんで」
「やだ寒河江くんめっちゃ彼氏」
「彼氏ですね」

人が多すぎるせいかこんな会話も普通にしてしまう。蒸し暑いし周囲の音がうるさいくらい賑やかだしで色々なことの感覚が鈍ってきた。
結局、次のアトラクションはシューティングライドで意見が落ち着いた。
レプリカのレーザー銃でモンスターを打ってスコアを出すっていうアトラクション。これも寒河江くんとワアワア言いながら打ちまくってエキサイトした。

園内は時間が経つにつれて更に人が増えているように見えた。
人の波がすごくてもうアトラクションに乗れるような雰囲気じゃなくなったから、甘いジェラートで体を冷やしたあと、俺たちはゲームコーナーに移動した。
ゲームコーナーは要するにゲーセンだ。
クレーンゲームの台が空いてたからさっそく二人で挑戦。お菓子が詰まった大箱についたリングに引っ掛けて落とすタイプのやつ。
最初に俺がやったけれどあえなく撃沈した。
一方「こういうの得意」と自信満々だった寒河江くんだったが――結果、何もゲットできなかった。
戦利品なしという状況が信じられない彼は「これ絶対アーム弱くしてる……」とかなんとかブツブツ文句を言ってたのが面白かった。
思わず声を上げて笑ったら寒河江くんに小突かれた。

今まで何度か寒河江くんとデート演習をしてきた。
それらと特に変わったことはしてないはずなのに、何もかもが楽しくてたまらない。寒河江くんも笑いっぱなしだ。
ああそうか、今までのも俺たちにとってはデートだったんだな。関係をはっきりさせてようやく、心から楽しめてるんだ。


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