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普通の書道と違ってパフォーマンスでは絵の具でカラフルにできるから後輩たちは楽しそうに自分の字を考えている。
マジックペンやシャーペンを使って字の配置を書き込み設計図のように組み立てていく。
音楽は誰かのスマホに入ってたみたいで、音を流しながらイメージを掴んでの練習も各々はじめた。
思った以上に熱心な練習風景の最中、神林くんが俺に話しかけてきた。

「ねー部長」
「ん?なに?」
「俺、昨日パフォーマンスの動画とか画像とかネットにあるやつスマホで見てたんすけど、あれ、あの衣装ってどーするんですか?」

神林くんが言うと、それが耳に入った他のみんなも「それ気になってた」「俺も」とざわついた。

「そういえば言ってなかったね。昨日のビデオで見て分かってるかと思うけど、墨と絵の具が飛ぶから汚れてもいいシャツとかジャージ着るんだよ。ツナギでもいいし」
「や、つーか袴ってのはダメなんスか?」
「ダメじゃないけど……汚れるからレンタル出来ないし、全員分揃えるとなると予算オーバーになるからなぁ……」

パフォーマンスでよく見かけるたすきがけをした袴姿はたしかに壮観だ。しかしただの文化祭でそれをやるとなると、とんでもない出費になる。
筆やブルーシートは代々のがあるからいいとして、紙代、墨代、絵の具代……と考えると捻出できる余分な予算はない。

「でも去年のあれじゃバラバラでつまんねーじゃん。せっかくやるならカッコよくキメましょうよ」
「うーん……でもなぁ……」

言葉を濁して渋っていたら、少し離れた場所にいた由井くんが片手を挙げて発言した。

「あの部長、その袴……なんですけど、一着か二着くらいならなんとかなるかもしれないです」
「マジ?」
「はい。おれの書道仲間がそういうの持ってたと思うんで、頼めばもしかしたら借りられるかも」
「えー、でも汚したら返すとき大変だし……それに一着くらいじゃ着てもあんま意味ないんじゃない?」
「別に使わなきゃいいんじゃないですか」

俺と由井くんの掛け合いの隙間を縫ってそう言ったのは寒河江くんだ。
借りるのに使わないとはどういうことだ。

「だから、パフォーマンスには使わないで宣伝用に着るんですよ」
「なるほどー。つまりさ、一人か二人が袴着て校内歩いて、パフォーマンスやるから見に来てくださーいっつって観客集めるんだろ?エーちゃん」
「そーゆーこと。それだったら墨で汚さないし、いかにも書道部って感じでインパクトあんじゃん?」

寒河江くんのアイデアを受けて中丸くんがわかりやすく解説してくれた。
ううむ、そういう使い方もあるか。言われてみれば、去年までは校内にポスターを貼ったくらいで積極的な宣伝活動はしてなかったな。
もし借りられなかったらそれはそれで臨機応変に対応できそうだし。

「それならいいかも。じゃあ由井くん、そういう方向で頼める?ダメだったら無理しないでいいからさ」
「はいっ!」

任せてくださいと力強く頷く由井くんが頼もしい。
けれど、それでも神林くんの要望である揃いの袴姿とはいかない。良くて二着借りられたとしても、残り八着なんて無理だ。
それで妥協するかどうするかと考えあぐねていたそのとき、小磯くんが控えめに手を挙げたのだった。

「あのぉ、部長。クラスTシャツならぬクラブTシャツ作るってのはどうですか?それなら安く作れますよね」

その提案に、全員で顔を見合わせた。

「――いーじゃんそれ!やりましょうよ部長!」
「あっ、だったらデザインは部長が文字書いてスーザンの雅号入れれば良くね!?」
「スーザン部隊だもんな俺ら!」
「待って待ってどこまでスーザン引っ張る気なの!?」

いつまで俺はそのネタでいじられるんだよ!あと由井くん笑いすぎ!どんだけスーザンでツボってんの!?

いや、でも揃いのTシャツってのはいい案だ。書道部らしく、筆で書いた字のデザインTシャツなら見栄えも良さそう。
俺たちが囲む円陣の外で静かに見守っている先生をちらりと窺ったら、先生は笑顔で頷きながら頭の上で丸を作った。クラブTシャツはOKらしい。

やっぱりテーマが決まると進みも早い。
昨日の難航した話し合いとは打って変わって、とんとん拍子に文化祭の出し物が具体化されていった。


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