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そして来たる日曜日――。今日は暑いくらいの快晴だ。
美容院は十一時に予約を取ったということで、寒河江くんとの待ち合わせはそれに間に合う時間に駅前集合と決めた。
しかし駅に向かう途中の『亀ヶ林小学校前』でバスが止まり、当の寒河江くんと車内で鉢合わせた。考えてみれば、駅に向かうってことは通学と同じルートなんだからバスで会って当たり前だよね。

「お、おはよう寒河江くん」
「あれ、センパイもこのバスだったんですか?ちょうど良かったすね」
「ですねー……」

休日のこの時間、バスはそれほど混んでない。だから俺は後方の席に座ってたんだけど、寒河江くんが隣に座ってきた。
なんかすごく自然に隣の席に座ったよね寒河江くん。だけど俺はまだちょっと気まずいものがありましてね。そんなわけで少々ケツの位置をずらして、彼から距離を取った。

そういえば寒河江くんが私服だ。腕時計だのネックレスだのとアクセサリーをつけてるけれど、服自体はシンプルな感じだった。意外だ。
白地にアイボリー系のチェック柄が入ったシャツを腕まくりして、下は色落ちした薄青の太めのジーンズ。あと小さいカバン……アレなんていうんだっけ……あ、そうそう、ボディバッグ。
寒河江くんにもらった雑誌を読んだから、なんとなくファッション用語が分かるようになってきてる。偉いぞ俺!
とにかく今の季節にぴったりの涼しげな色合い。でもなんかチャラいんだよなあ。硬派とは程遠いのは何故なんだ。今から女子と遊園地にデートにでも行きそうな雰囲気とでもいえばいいのか。
相手が俺で大変申し訳ない気分。

「あー……えっと、本日はお付き合いいただきありがとうございます」
「別にいいですよ。ただついてくだけだし」
「他に何か予定あったんじゃないの?ほら、遊びに行ったりとか。寒河江くんって休みの日も充実してそう」
「土日はだいたいバイト入ってるんで、あんま遊びには行きませんよ」
「へえー、バイト。どんなとこでやってんの?」

俺の周りにはバイトしてる人がいないので興味本位で聞いてみた。すると寒河江くんは、椅子の背もたれに寄りかかりながら足を組んだ。

「バイトっつっても手伝いみたいなもんですよ。親戚の家が飲食店やってるんで、そこで」
「飲食店?」
「フツーの小さいレストランです。オレはホールの手伝い」

ホールということは注文を取ったり皿を運んだりする係か。俺は父さんの絵画教室の手伝いくらいしかしたことないから、そういう接客業してるのってすごいなあと思う。

「えっ、だけどそれじゃあ尚更忙しかったんじゃない?」
「今日はもともとバイト休みだし、特に予定もなかったから」
「そ、そーなんだ。でもありがとう、わざわざ俺なんかのために」

再びお礼を言うと、寒河江くんは人懐っこい笑顔になった。
ううむ、なんて打ち解けるのが早いんだ。
まあ俺だって、素直に謝ってくれた彼に対してずっと怒っているわけじゃない。ただ、収まりが悪いとでもいうべきか、どういう態度でいればいいのか迷いがある。

いつもの通学ルートとくればいつものきついカーブに差し掛かり、バスが大きく揺れた。ついでに寒河江くんの腕が軽くぶつかった。
なあ寒河江くん、こ、混んでないんだからもうちょっと離れて座ってもいいんじゃないかな!やけに狭い気がするんだけど!?

バスのあとは電車に乗り、降りたのは知らない駅だった。
一応俺も事前にマップを調べてはあったが、実際歩くと道が入り組んでいて複雑だった。とはいえ寒河江くんの先導に従ったから彼なりの最短ルートだったのかもしれない。
十五分くらい歩いて着いた先は、半分ガラス張りの落ち着いた雰囲気の美容院。オシャレデザインの曇りガラスと白い壁が眩しい。

「ねえねえ寒河江くん……」
「はい?」
「あのさ、この店、ものすごい一見さんお断りバリアが張られてるんだけど……」
「ありませんってそんなもん。そう見えるのはセンパイだけですよ」

そうかなあ!?そんなことない!見えない防御壁があるよ絶対!
店の名前も『Chasselas』なんてまず読めないし。ホームページで確認したところシャスラと読むらしい。やばい超強そう。無慈悲で冷酷な女王様ってイメージの響きがする。怖すぎじゃない?
やっぱり寒河江くんについてきてもらってよかった。俺一人じゃ入れないよ、こんなとこ。
もじもじしてる俺を置いてさっさと店のドアを開けてしまった寒河江くん。
こんなところで一人残されたら心細くて泣いちゃうので、慌ててそのあとを追った。


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