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「俺……俺さ」
「な、なんだよ」
「きょーちゃんとちょっと、高校んとき離れたっしょ」
「まーな」

あの告白は俺の中ですでに黒歴史になっている。若気の至りって怖い。や、今だってまだ十分若いけど。

「俺がきょーちゃんの告白を断ったからって、全然今までと変わらないと思ってたわけ。なのに、きょーちゃん急によそよそしくなっちゃって」
「そ、そりゃさ……だってお前、ホモなんて気持ち悪いだろ、フツーに」
「きょーちゃんを気持ち悪いなんて思ったことないよ。でも俺、ラブの意味での好きとかそんなこと考えたこともなかったから結構混乱してたし、話すタイミング逃して結局疎遠になっちゃったんだよね」

ハトが切なげな表情をしたからドキッとした。ずっと離れていたせいで目の前の男が全然知らないヤツに見えた。
いや、こいつはもう俺が好きだった昔のハトじゃないんだ。
背が伸びて、髪型も、顔つきも変わって、たくさんの時間を俺の知らない人間と過ごしたハトは良く知ってる幼馴染みのハトじゃない。羽藤新太っていう一人の男だ。

「あの日から俺、ずっときょーちゃんの気持ちとか考えてて、もっとあの時お前に言えたことがあったんじゃないかって後悔してて」
「……ハト……」
「そんで、なんか話すきっかけが欲しくて同じ大学入ったけど、きょーちゃん俺のことフルシカトだし」
「まッ、待て待て!俺別にシカトなんかしてねーよ?え、だって会ってすらないじゃん」
「会ったって!うっそ、マジできょーちゃん全然気付いてなかったんだ」

ハトが俺の肩に頭を乗せて深く長い溜め息を吐いた。
大学内でハトに会ったんなら絶対気付くはずだ。こいつの周りは騒がしいから気付かないはずがない。
あれ、でももしハトが一人だったら?イケメンだけどもともとは俺と同じ目立たない系だし、話しかけられなかったら分かんないかもしれない。

「ご、ごめん。マジでそれは気付かなかったわ」
「気付いてくれると思ったのに。こっそり手も振ったのに」
「そんな控えめなアピールされても」
「……それなのにさぁ、飲み屋で知らないヤツと顔寄せ合って楽しそうに話してるの見て、俺、殺したくなった」
「は?」
「きょーちゃんの隣は、俺のもんだったのにって思って。なんで俺以外のヤツがその場所にいんのって」

俺の肩を掴むハトの手が力を増し、みし、と骨が軋むような音が聞こえた。
痛い、けどその真剣さに気圧されて、喉に物が詰まったみたいに言葉が出なくなった。

「きょーちゃんきょーちゃんきょーちゃん」
「な……なんですか」
「俺、きょーちゃんが好きだ。もちろんラブの意味で。だから付き合って」
「え、いや……困る」
「なんで!?」

ハトが俺をベッドに押さえつけ、そして逃がさないと言わんばかりに圧し掛かってきた。

「なんでもなにも、言ったじゃん。お前とはナイかなって。もう俺の中では結構整理ついちゃってるし」
「じゃあもう一回好きになって!」
「ちょっといいなーって思ってるつーか、いい感じになってる人いるし」
「誰それちょっと埋めてくる」
「う、埋めるなよ、俺の好きな人を……」

ずいぶんとマジな顔で言うから俺はかなり引いた。

「俺はコクられたあの時からずっときょーちゃんのこと考えててきょーちゃんともう一度一緒にいたくなってきょーちゃんが好きなんだって気付いて、それでようやく彼女とも別れられたのに!」
「は、別れた?」
「そーだよっ!ずっと別れようって言ってたのに全然話聞いてくれなくてさ。で、クリスマスイブまで彼氏でいるって約束をやっと取り付けてさ。今日……あ、もう昨日か、別れてきたとこ!」

ハトがはぁ、と溜め息を吐きながら俺に覆いかぶさった。
そのまま抱きしめられて、子供のようなそれに少し絆されてしまう。ハトのさらさらした髪が首筋に触れてくすぐったい。

「……もう最悪。やっぱり別れたくないって店の前で泣かれて、俺ちょー悪者。他に好きな男が出来たからこれ以上付き合えないってちゃんと言ったのに」
「それは……彼女さんに同情するわ」

女相手ならいざ知らず、彼氏がゲイになっちゃったなんて、やりきれないだろうなぁ。
つーか平然と男を好きになったとか言えるその心臓がすごい。図太いのか鈍いのかわかんないけどそこは素直に感心する。

「でも俺にもう気持ちがないって最後には分かってくれてお別れしたんだけどー……帰ってきたら日付かわっちゃってたし、明るくなってからきょーちゃんとこに来ようと思ってたんだ、ホントはさ」
「はぁ……それがゆーれい出たもんだからビビッて来ちゃったわけ」
「ビ、ビビッてないよ、少し驚いただけだし……。なんていうか、きょーちゃんに断られるなんて全然考えてなかったし」

ああ、わかるよわかる。俺も高一のときはそうだった。断られるわけないって妙な自信があったんだよな。
ハトのこと一番分かってるのは自分だし、うまくやっていける、男同士っていう障害もハトとなら乗り越えられる――ってどこの昼ドラだよっていう陶酔感。

「時間差ありすぎ」
「うぅぅ……」


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