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「……んだよ」
「俺もそこで寝ていいですか」
「いいわけねーだろ。お前その図体でなに言ってんの?」

ハトがこの狭いシングルベッドに入ったら確実にはみ出る。それ以前にこいつと同じ布団で寝るなんてぞっとしない。

「大丈夫いけるって!く、くっつけばいいじゃん!」
「なにドモってんだよキメーな。嫌に決まってんだろ」
「じゃあ俺ここに住む!」
「じゃあの意味がわかんねーよ……」

だいたいここに来た理由すら不明なのに何でいきなり同居宣言?
ハトがゆさゆさと布団を被った俺を揺する。

「ねーねーきょーちゃん!寝ないでお願い!」
「つーかなに、お前何があってここ来たんだよ?」
「お、俺とお前の仲じゃん……来たっていいじゃん……」
「時間考えろよ」

布団から顔を出してじろりと睨むとハトがぐっと怯んだ。そしておずおずと理由を喋りだしたんだが、その理由がまたアホくさかった。

「あの……その、ね?出たんだよ」
「何が?この真冬にGのつくアレか?」
「ゆーれい」

……寒いのにゆーれいも大変だな……。

「へぇ……」
「やめてやめて!その憐れむような目やめて!夢とかじゃないからマジだからマジ!」

俺の言いたいことを正確に読み取るあたり、幼馴染みスキルはまだ有効らしい。

「寝ようとしたらクローゼットから音がしてさ!んで、何かなって覗き込んだら……ギャアアア!って!」
「ギャーじゃわかりません。詳細に述べよ」
「か、髪の長い、女の人がこっち見て笑ってた……」
「……ストーカーじゃねーの?ハトん家に同棲希望の」
「違う違う!絶対違うって!首だけだったし!首だけ浮いてた!」
「わー恐怖体験」

そりゃこえーわ。完全に他人事だからどうでもいいけど。

「なので今日から俺きょーちゃんと一緒に住む」
「どうしてそういう結論に飛んじゃうの?謎すぎ」
「怖くて家帰れません」
「まあ一晩泊めてやるくらいはいいよ。でも朝になったら帰れよな」
「えー……うん」

あからさまな不満顔でハトが頷く。
やれやれこれでようやく寝られる――いや、その前にさっきの書き込みの続きだけ見ようかな、と思ってたら信じられない言葉が耳に飛び込んできた。

「じゃ、じゃあ……せっかくだしエッチする?」
「は?」

俺の「は?」は地を這うような低い声になったと思う。でもハトは名案!とばかりにベッドに身を乗り出してきた。
速報、幼馴染みの頭がおかしい。

「俺とエッチしよ、きょーちゃん!」
「……お前、俺をからかってんの?」
「からかってないって!」

徐々にベッドに入ってくるハト。俺はそれを食い止めるために布団を体に巻き付けて抵抗した。
二人で地味な攻防を繰り広げている間にもハトが一生懸命言い募ってくる。

「だってきょーちゃん、俺のこと好きって言ってたじゃん!だから俺と一晩一緒にいるなら、そういうことしたいかなって……」
「それ何年前の話だよ。そんで俺、お前にフラれたよな。その時お前なんて言った?」
「……兄弟みたいなもんだしそういうのは考えらんない、って感じだったっけ……?」
「そーそー。お前に言われて気付いたんだけど、ハトって家族同然だったじゃん。たしかによく考えたらナイかなって」
「マジで?」
「マジで」

俺がこくりと頷くと、ハトが絶望的な表情で床に沈みこんだ。

「えぇー……マジで?マジなの?」
「お前さぁ、自分が言ってることわかってる?男同士で、しかも俺なんかとナニしようって言ってんだけど正気?」

俺の言葉に反応したかのように起き上がるハト。そして何故か神妙な表情で正座をし、ベッドの上の俺を見上げてきた。

「……先月の頭にさ、きょーちゃん駅前の赤木屋にいたっしょ」
「駅前?あー……どうだったかな。行った……かも?」
「一人じゃなくて、二人だった」

居酒屋に二人連れで行った?
先月ねぇ……行ったような行ってないような。やっべ全然思い出せねーや。ついこないだのことなのにもう忘れるとか、俺ボケ始まってる?

「んー……石川かなぁ」
「キスしてたじゃん……」

キス?
――あ、思い出した。それゲイアプリで知り合ったヤツだ。ゲイ専用SNSで、住んでるとこ近かったから会った男。
気が合ったらホテル行こっかーみたいなノリで話して、けっこー好みだったし居酒屋のあとしけこんだんだった。
そのあとも時々メールしてるけど、向こうが不定休の社会人で都合が合わなくてそれ以来会ってない。

「確かに行ったわ。つかなんでハトが知ってんの?お前もその日赤木屋にいた?」
「サークルの飲みコンで」
「そうだったんだ。へー」

あんま店知らなかったからあそこでいいやと思ってたけど、知り合いがいるんじゃ今度から別の店にしないと。
一人で納得してると、ハトが突然俺の肩をがっしりと掴んだ。

「だから俺としよーよ!」
「だからどーしてそーなる!?」
「だってきょーちゃんホモなんでしょ?俺としたっていいじゃん!」
「よくねーっての!」

肩を固定されて上半身が動かせなかったから鳩尾辺りを踵で蹴った。それでもハトはめげない。
いつもヘラヘラしてるハトがいつになく真剣な顔で俺の顔を覗き込んでくる。


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