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結論から言うと、突然の訪問者は俺の幼馴染みだった。

名前は羽藤新太。はとう、で「ハト」と俺はガキの頃から呼んでいる。平和なニコニコ顔とお気楽な性格のこいつには合ってるあだ名だと思う。
そしてハトは俺のことをきょーちゃんと呼ぶ。名前が響平だからきょーだってのは分かるけど、間抜けな響きだしこの年になってその呼び名は本気で勘弁して欲しい。

ハトとは幼小中と一緒で、家もご近所で、絵に描いたような幼馴染み。
しかし高校は別だった。俺が受験に失敗して滑り止めの学校に行ったからだ。

――ぶっちゃけて言うと俺はゲイだ。男でありながら男にしか恋愛感情を向けられない性癖。
皆があの女子が可愛い、初恋だなんだと騒いでる中、俺はどうしても女子に興味が持てなくて、小学校の終わり頃にハトのことが好きなのかもしれないとうっすら気付いた。
ハトだけが好きってわけじゃなくて、性的に盛り上がる中学時代、ムラムラとするのはいつだって男相手だった。
保健室の先生に「女子に興味が持てない、自分がおかしい」って相談したら、それは別に異常でも何でもないと優しく諭され、ゲイという性癖を自分の中で認められるようになった。

もちろん自分で認めても周囲の理解はそう簡単にはいかないってのは分かってるから、かなり葛藤した。今だって親には言えてない。
ハトのことだって、なんとなく好きでいて、このままずっと仲良くしながら側にいられたらそれでいい。そう思ってたのに。

ハトは子供の頃、俺と同じくクラスでは目立たない方の男子だった。
でも中三の後半あたりから急に背が伸びて、高校生になったら男性ホルモンだかなんだかで大人びるとめちゃくちゃモテ始めた。
もともと顔のつくりは整ってたし、マメな性格も幸いしたのかどうかハトの周りは一気に華やかになった。
学校が離れてる間にハトは眼鏡をやめてコンタクトにし、周りの影響かなんなのか髪型や服装がぐっとアカ抜けた。
そして女子に告られたとかプレゼントもらったとか、モテ期に浮かれるハトを間近で見るのはかなりキツかった。
分かってたはずだけど覚悟が足りなかった。ノンケの相手を好きになるってことを。

だからバカな俺は、焦ってつい言っちゃったんだ。高一のクリスマスの日、ハトに「好きだ」って。
そしたら、まぁフラれたんだよね。ハトは俺のことを詰ったりはしなかったけど「何言ってんだコイツ」って言いたそーな奇妙な目で俺を見た。

それから俺らの関係は気まずくなって、高校卒業するまでほとんど話もしなかった。
ただ家の近くで彼女連れのハトと鉢合わせることはあったから、俺のバカさ加減をそのたびに思い知らされた。
失恋して落ちこんでる間も性欲とそれに対する好奇心は抑え切れなくて、ゲイで有名な先輩と初体験しちゃったり、その後も適当に相手を変えて遊んだりした。

そして隣県の大学に受かってみたら、偶然ハトも同じ大学を受験していて見事合格してた。
学部が違うせいか学内で会うことは全然ないけど、住んでる場所が近い――ってことは知ってる。
なぜなら俺の母さんがハトに合鍵を渡しやがったからだ。

高校に入って疎遠になったのは学校が違っちゃったからだと信じて疑わない俺らの親は、これを機にまた仲良くしなさいよ、と互いの合鍵を持たせたのだ。
俺は曖昧に笑いながら一応受け取って、その合鍵は部屋のどこかにしまった。絶対使うことなんかないと思って収納した場所すら忘れてる。もしかしたら実家に置きっぱかもしれない。
ところがハトは、マメなこいつらしく合鍵持参で俺の家に来て、それを使って堂々上がり込んだというわけだ。

ブランド物のダークレッドのモッズコートを着たハトは、ガタガタと震えながら呆然としている俺に抱きついてきた。

「お願いきょーちゃん!泊めて!」
「……や、あの、うん、いいけど……」

せめて久しぶり、とかなんとか言えないの?なに幼馴染みノリで泊まろうとしてんだよ。普通に気まずいだろ。

「お前体冷たいしさみーから放してくんねーかな」
「うう……」

ハトが渋々といった顔をしながら離れていく。
よく見たらこいつコートの下、ダル着だし。クリスマスなのに彼女と性夜デートじゃないのかよ。
しかしまあ大学生になったらますますイケメンになっちゃって。合鍵を渡し合いしたとき以来だから……えーと8……9ヶ月ぶりくらい?

「なに、ハト手ぶら?財布とケータイくらいは持ってきてんの?」
「ケータイだけ……」
「財布なしでここまで歩いてきたわけ?」
「うん」
「ばっかじゃねーの?……まあいーや。自分の以外にフトンとかねぇから適当に床に転がって寝ろよ」

じゃ、おやすみと言いながらベッドの中に潜り込むとハトが勢い良く布団を掴んだ。



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