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――いつからこうなったのか、といえば細かくは覚えていない。

俺が在籍してるのは私立皇鐘台学園だ。
中高一貫校の金持ち学校で、僻地にある全寮制の男子校。中高の建物はわりと近場にあり系列の大学部は別の場所にある。

不況のこのご時勢、ニッチなサービスで外食産業で成功を収めた志賀フードグループが俺の家だ。
俺の親父は志賀グループ三代目で、優秀な兄がすでに次代の後継者としてグループ会社で働いている。

俺は中学からこの金持ち学校に入学した。
というか普通の公立校だと周囲との格差が出来て、俺がまともな友人関係を築けなくて小学校時代悩んでいたせいでここを選んだのだ。
その点、このマンモス校にいると俺の家程度の成金は中流家庭クラスに格付けされるから、変に気を張らなくてよかった。

もちろん将来は実家のグループのどこかに就職するつもりだから、勉強も頑張りたい。
それらを叶えてくれるこの皇鐘台学園は俺には合っていた。

……しかし、いくつか引っかかる問題がある。

それは、この閉鎖された男子校では、有り余る若い性欲の捌け口が自然と同性に向かってしまうということ。
中学の頃からこの学園にいる俺もすっかりその風潮に慣れてしまって、思春期の純然たる興味として同室のヤツとか男友達とかと冗談でキスをした。
そしたらすっかりハマってしまって、気がつけば挨拶の軽いノリでキスをするほどになった。

そんなのはもちろん遊びだし、冗談の延長のようなものだったんだけど、いつの間にか「頼めば俺がキスをしてくれる」という噂が広まっていた。

それは単なる興味本位もあれば、本命の前の練習台だとか、単純に気持ちがいいから、というどうでもいい理由で色んなヤツが俺の唇を奪っていく。
しかも俺の知らないところで暗黙のルールができていたというから頭が痛い。

ひとつ、キスは一日一回まで。同じ人が一日に何回もしてはいけない。
ひとつ、お礼を持っていくこと。金銭はNG。食べ物だと喜ばれる。
ひとつ、ディープキスはしてはいけない。

俺はそれについて何も言ったことがないし言うつもりもないけど、とにかく何故かそのルールに則って学園のキスフレンドとして認知されてるらしかった。
じゃあ野郎共がこぞってキスをしたがるほど超絶テク持ちなのかというと、そういうわけでもない。
たしかに悲しいかなキスの場数はやたらと踏んでいるが、夢中になるほどのテクニックは持ち合わせていない……と思う。

俺が女に見える容姿だったらまあ納得できるが、それもない。
身長は176あるし、パッと見て10人が10人「お前は男だ」と断言するくらい普通に男だ。
ならば俺が超美形なのかと言われると、それも断じてない。
顔面偏差値は取り立てて優れてるってわけじゃないけど、まあカッコ良くなりたいお年頃なんで雰囲気イケメンくらいにはなっている。はずだ。

この学園はやたらと美形率が高いから、俺程度なんて普通の中の普通。
なのに何故か野郎共がキスを求めてやってくる。

まあキスくらい別にいいんだけどな。
……いや、こういうゆるい貞操観念のせいで気軽なキスフレ認定されてるんだろうか。


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