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俺と仁科の出会いは高等部一年のときだ。
エスカレーター式だから、中等部から高等部に進学してもほとんど代わり映えしない顔ぶれだったなかで、仁科は色々と有名人だった。

まず、進学と同時にすでに親衛隊がいたこと。そしてバリタチのとんでもないヤリチンだということ。
親衛隊は仁科の公式のセフレみたいなもんで常に美形で愛らしい男子を侍らせていた。
仁科はバイで、外部に芸能人の彼女がいるという噂も聞くくらいのモテ男だった。
そんなヤツと何の因果か高等部の寮で同室になった。

俺はいろんな意味で有名人の仁科のことは当然知ってたが、仁科の方も俺のことを知っていたのには驚いた。
相部屋になって数日後、共有スペースのリビングでテレビを見ながらくつろいでいたときに「志賀ちゃんってみんなのキスフレなんだって?」と、どこで聞きつけてきたのかからかいがちに言ってきたのだ。

そんなことどうでも良かった俺は曖昧に返事をしたのだが、仁科が無邪気に味見させてよと迫ってきた。
ちょっと面倒くさく思いながらも素直に唇を差し出すと、ヤツは慣れた仕草で自然に覆いかぶさってきた。

仁科とのキスは、正直に言ってめちゃくちゃ気持ちよかった。今までしたキスの中で一番といっていいくらい気持ちが良くて、俺は夢中になって仁科の唇を食んだ。
唇の感触とか、香水の匂いとか、密着した体温とか、そういうもの全部がとにかく快感であっという間に蕩けた。たった数分のキスで情けなくも半勃ちしたくらいだ。
最中は恥ずかしいことに喘ぎ声まで漏れてしまったほどで、キスが終わると「えっちぃ顔」と仁科に笑われた。

それから俺と仁科は頻繁にキスをするようになった。
学園内ではほとんどしなかったが、寮に帰ると飽きることなくしょっちゅうやってた。仁科とのキスは中毒のようなもので、もっともっとと欲しくなる魅惑の唇だった。
仁科はいつも余裕で、おかしそうに笑いながら俺に極上のキスを与えてくれた。
キスだけじゃなくて気も合って、つまらないことで冗談を言い合っては馬鹿みたいに笑える仲だった。

そんな感じで一年は過ぎていったんだが、ある日を境に俺は仁科とのキスも仁科との付き合いもすっぱりと止めた。


あれは、今から二ヶ月くらい前――3月頭の頃のことだ。
仁科は次代生徒会執行部の役員入りが決定していたから春休み中に俺との同室を解消することになっていた。
生徒会役員は色々と優遇制度があって、特別寮に個室が用意されていることもその特典のうちのひとつだった。
仁科との相部屋が解消してしまうのはなんというか少し寂しくて、そんなふうに思う自分がちょっと照れ臭かった。

仁科は軽いけど一緒にいて楽しいし性格も俺と合ってると思ってた。俺みたいなのと仲良くしてるのに親衛隊からの制裁ってヤツは全然なかったし、本当に普通の友達だった。
というか当時の親衛隊長――三年の先輩だった――ともキスフレだったことも大きかったかもしれない。
役員のための特別寮とは言っても自分達で引越しをしなきゃいけなかった。
仁科の親衛隊たちとは顔見知りで結構仲良かったから俺も彼らに混ざって引越しの手伝いをしてやって、無事に移動した。

荷解きが終わると、二人でお別れ会のようなものをした。つってもチューハイと菓子で引越しお疲れって感じでいつもみたいにゆるくお喋りしてただけなんだけど。
一人部屋は広くて羨ましいとか新生徒会執行部の顔ぶれはどんな感じだとか、そんなことを取り留めなく話してたらいつものようにキスの流れになった。
こうして部屋でキスするのも最後なのかーと少し酔った頭でぼんやり思いながら仁科の唇を堪能していたら、ソファーにやんわりと押し倒された。

『……志賀ちゃん、キスしてい?』
『もうしてんじゃん』

そう言って笑うと、仁科が噛み付くように俺の唇を塞いだ。
今までのキスは本当にお遊びだったんだと痛感するほどのディープキス。滑らかなベルベットみたいな舌に口内を蹂躙され、唇を食まれた。
上顎を舐められるとくすぐったさとともにゾクゾクとした快感が俺を容赦なく襲って、戸惑いながら仁科を押し退けた。

『いきなりなにお前。もういいや、やめよ』
『志賀ちゃんかわいー』

俺の名前を囁きながら、また深いキスをする仁科。それだけで体の力が抜けてしまうほどの超絶テクニックだった。
下半身が素直に反応してしまって、それを知ってるかのように仁科は俺の体を暴いた。
仁科の大きな手で愛撫され、いつの間にか服を脱がされて全身くまなくキスをされ、風邪を引いたときみたいなぼんやりとした熱に浮かされた。
とにかく気持ちが良くて俺は喘ぎ声が止まらなかった。

男とそういうことするのは――まあ正直初めてでもなかったけど、俺はそれまでタチだったからあんなふうに仁科の下で翻弄されたことにびっくりした。
仁科は慣れていて上手かった。かなりの痛みもあったけど、それ以上に狂ってしまうんじゃないかと思うほどの激しい快感に喘いだ。


仁科とやりまくったあとふと目を覚ますと深夜だった。
いつの間にかベッドに移動していて隣には仁科が寝ていた。寝顔はいつもより少しあどけなくて綺麗で、その分憎らしく思った。

そのときに気付いてしまった。俺は仁科のことが好きなんだって。
その好きはたぶん友情の範囲を超えている。
寝ているヤツを起こさないようにそっとベッドを抜け出して、俺は自室に帰った。

初めてのネコだったせいで――というか仁科が好き放題やりまくったせいでまともに腰が立たなくて、中腰になりながらもなんとか部屋に帰りついた。
一人になった部屋のベッドで横になりながら、俺は泣いた。風呂に入っても仁科の香水の香りやキスの余韻がいつまでも消えなくて、切なくて泣いた。

よりにもよってどうしてあんな気の多いしょうもないヤツに惚れたんだろうと思うと、自分の馬鹿さ加減を呪った。
俺は、仁科のセフレになるのだけは御免だった。
だからその日を境に俺は仁科との関わりを絶つことに決めたんだ。
しかしアホでデリカシーのない仁科はその後も俺にやたらと絡んでくる有様だ。キスしたいと迫られて邪険に扱ってもめげないあいつは本当に馬鹿野郎だ。

好きじゃないヤツとならいくらでもできる。
逆に言えば好きなヤツとキスなんて絶対にお断りだ。


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