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「志賀理仁だな」
「はぁ……」

今日の授業が終わって放課後、廊下を歩いてたらガタイのいい野郎三人に呼び止められた。うお、こいつら三年生だ。
なんなの、制裁?制裁ですか?ついに来たか?

生徒会役員や学園の人気者には親衛隊というちょっと過激なファンクラブが付いていて、あんまり彼らと仲良くするとヤキモチ焼いたそいつらから制裁という名のイジメや肉体言語を受けると聞いている。

俺はそういう奴らともチュッチュしてるからいつ絡まれてもおかしくないんだけど、今のところそういうのはない。しかしそんな俺も年貢の納め時かもしれない。

上級生たちにひと気のない社会科準備室に連れ込まれる。いつ来ても埃っぽいよなここ。

「えーと……なんすか?」

三人とも俺よりもデカイから囲まれるとやたらと威圧感がある。本当に同じ高校生かよ。
やべー俺みたいなヒョロ男、ボコられたら死んじゃう。

奴らをじっと見上げると、真ん中のヤツ(眉毛極太)が無言で紙袋を差し出してきた。
よく分からずにそれを受け取って中を覗くと、そこには有名なパティスリーの焼き菓子がぎっしりと詰まっていた。

つーか菓子の容れ物可愛いな。ピンク色したきのこの形の器に小さいウサちゃんのぬいぐるみが焼き菓子に埋まって入ってる。

「……もしかしなくても三人分?」
「ああ」

おいおいポッと顔を赤らめないで!あと両脇の二人もそのガタイでもじもじしないで!
しょーがねーなもう。

「歯磨いてきた?」
「30分かけて磨いてきたぞ!」

両脇の二人もこくこくと何度も頷く。そんなに気合入れなくても……。

「んじゃ、いっちゃいますか? 順番どーします?」
「まっ、任せる!」
「お、お願いします!」

やたらと緊張してる真ん中の眉毛先輩の分厚い肩に腕を回して、俺は顔を傾けて躊躇いなく唇を重ねた。

「んっ……」

ちょっと眉毛先輩、そんな可愛らしい声出さないで!すげぇ似合わないから!

俺は続けて右隣の刈り上げ先輩の頬をするりと撫でて後頭部をつかむと少し背伸びをしてキスをした。なにこの人の唇。外見に似合わない柔らかさ。
「ピーチ味……」と呟いたままカッチンコッチンに固まっちゃった刈り上げ先輩から離れて、

次は左端の顎ヒゲ先輩のネクタイを引っ張った。やや強引に顔を近づけてかぷりと唇を塞ぐ。
最後にチュッとわざとらしいリップ音を立ててにっこりと笑った。

「……これでいーですか?」

まさかのファーストキスじゃねえよな?頼むから違うと言ってくれ先輩たち!うっとりしないで!
顔を真っ赤にした先輩方が身悶えてるうちに、俺はひらひらと手を振った。

「んじゃ、そういうことで」
「ま、またよろしくお願いします!」
「はいはい、いつでもどーぞ」

準備室を出た俺は、焼き菓子の詰まった紙袋を抱えなおしてフルーツガムを噛み直した。

キスフレとかやってると口臭とか気になるわけですよ。歯磨きをきちんとしたあとにマウスウォッシュまでする徹底振りだし。

だから気がつくといつもガムを噛んでる。ファーストキスは何味?とか夢見てるオトメンもいるから、甘い香りのフルーツガムばかり選んでしまう。

おかげで俺のキスは甘いと定評があるんだぜ。

あ、そうか。こういう余計な気回しもいけないんだな。
いっそニラとニンニクたっぷりのギョーザでも食って断ってやろうか。


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