イロハテナライ・96話の冒頭


校庭の水道でパフォーマンスの汚れを洗っている最中の書道ボーイズ。





ストーカー男の件が片付き、パフォーマンスの後片付けも終わったら、俺たちは校庭の脇にある水道で汚れた手足を洗いに行った。
しかし男だらけだとけっこう雑にホースでバシャバシャやっちゃうから、洗っている間に水が飛びまくる。
せっかく泡立てた石鹸が汚れを落とす前に流されるし、なにより服を濡らされる。

「うわっ!ちょ、誰だよ今の!」
「……はぁ?なんでこっち見るわけ?」
「そっち側から飛んできたんだけど?」
「ま、まあまあ、狭いんだからみんな譲り合って!ね?」

喧嘩ってほどじゃないけど軽い言い争いがはじまってしまったので、慌てて俺が間に入った。
野郎ばかり十人が押し合いへし合いで水場を占領して騒いでいれば自ずと周囲から視線を集めてしまう。
書道部が柄の悪い部だと思われるとすごく困る!新入部員的な意味で!
二人の間に割り込んだそのとき、どこかから飛んできたホースの水がバシャッとクラブTシャツにかかってしまった。

「部長!」
「すいませんスーザン先輩!」
「うぅ……水冷たい……」

じっとり濡れて張りつく感じが気持ち悪い。吹き抜けた秋の冷風に体温を奪われてブルッと震えた。
とんだとばっちりでテンションが下がっていると、真っ先に寒河江くんが呆れ声で注意してくれた。

「つーかお前ら、遊んでねーでさっさと終わらせろよ。……大丈夫ですか、センパイ」
「う、うん。あーどうしよう、濡れちゃったしもう脱いじゃおうかな」
「だったらオレの貸しましょうか?」

そうしたら寒河江くんが意味もなく半裸になるってことじゃないか!
気遣いはありがたいが、それじゃあ後輩から服を巻き上げた先輩みたいになってしまう。

「別にいいって。あの、やっぱ部室まで我慢するよ」
「じゃ、すぐ戻りましょう」

盛大にかかってしまった水をせめてタオルで吸い込もうとワシャワシャ拭いていると、ホース片手に全員を見回した須原くんがぽつりとつぶやいた。

「……ずっと思ってたんだけど」
「え?」
「なんか俺ら、ラーメン屋の店員みたいじゃね?」

みんなの「あっ!」という声が揃った。
言われてみれば、こういうTシャツをユニフォームにしているラーメン屋の光景が脳裏に浮かび上がる。
ていうかもう【ラーメン屋『龍』崇山店】にしか見えない!ちょっと緊迫していた俺たちに、瞬く間に爆笑が起こった。

「お前ふざけんなよ!」
「すっげーラーメン食いたくなってきたじゃねーかバカ!」
「あーハラ減った!!」
「帰りラーメン食べて帰ろ」
「行くかー!」

笑いながらさっさと洗い終えて水場を出る。
うう、俺もめっちゃラーメン食べたくなってきた。味玉が乗ってるやつ。あっ、でも今日は寒河江くんの家にイチャイチャしに行くんだっけ。家に行く前に腹ごしらえするか?
色々考えを巡らせている俺に、寒河江くんがそっと話しかけてきた。

「……センパイ」
「なに?」
「明日ラーメン食いに行きませんか」
「行く!!」

こうして明日のデート中に食べるものは決まったのだった。


prev / next


 ←main

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -