嫌われたくないと初めて思ったの
幼子の閉じていた瞼が薄っすらと開く。
「………あれ……ここは……?」
どうして自分はこんなところにいるのだろうか、と未だぼんやりした頭で考える。
そうしてナルトは思い出す。自分が死にかけた先で見た、美しい金色の獣のことを。
ハッとして勢いよく身体を起こすと、あんなに感じていた痛みは、いつの間にか綺麗さっぱり無くなっていた。
あの時に見た美しい獣に、一目でいいからもう一度会いたいと、キョロキョロ辺りを見回して見つけたのは、
ーー巨大な鉄格子で出来た大きな檻だった。
何故こんなところにこんな大きな檻があるのだろうかと不思議に思う。
普段なら警戒して、よく分からないモノには絶対に近づかないナルトだが、まるで何かに惹かれるようにフラフラと檻へと近づいた。
そうしてナルトは檻の中に見つける。意識を失う寸前に見た、あの美しい獣の姿を。
その瞬間、ナルトの心臓がドクンと大きく脈を打った。
無意識に檻の隙間から手を伸ばし獣に触れようとするが、次の瞬間ぶわりと強烈な殺気がナルトを襲う。
ヒュッと息を呑んだナルトは、突然感じた死の恐怖に膝から崩れ落ち、自分の身を守るようにギュッと身体を抱きしめた。
「ーー儂に触るな」
檻の中からドロドロと憎しみに満ち溢れた声が聞こえた。
無意識に身体をガタガタと震わせながらも声の主があの美しい獣だと分かり、ナルトは恐る恐る顔を上げる。
するとあの時に見た、血のように紅い瞳が憎悪のこもった眼差しでナルトを睨んでいた。
その時ナルトが真っ先に思ったのは、獣への恐怖よりも、この美しい獣に嫌われたかもしれないという絶望だった。
だからこれ以上嫌われたくないと、ナルトは必死で頭を下げた。
「あ、あの……ごめんなさい。許可なく、いきなりあなたに触れようとして。本当に、ごめんなさい」
「……去れ、二度と此処へ来るな」
ヒヤリとするほど冷たい声で突き放されたナルト。
そんなことなど慣れているはずなのに、何故かこの時は胸がきゅうっと締め付けられ、泣くまいと奥歯をぐっと噛み締めた。
それでもまたこの獣と会いたいと思ったナルトはぐっと顔を上げると、一生懸命笑顔を作り、
「あの……また来ます!」
と、言ってその場から掻き消えた。
「…………なんなんじゃ一体」
残された獣は、去り際に見せた子どもの笑顔が気にかかった。
先ほど、大人の忍びでさえ恐れるほどの殺気を子どもにも浴びせた。実際、その殺気を浴びて、自分に恐怖し、怯えていたはず。
それなのに何故また此処に来るだなんて言ったのか。何故自分に笑顔を見せたのか。
そういえば身体は殺気に怯え震えていたが、目が合った時のあの子供の目には、怯えや恐怖の色が一切なかったことに今更気付く。
そうして次に子どもが自分の目の前に現れるまでの間、獣は一人悶々とするのだった。