失いたくない貴方との繋がり


「こんにちは金色さん!」

 檻の中で寝そべっていた獣は、ニコニコと今日も笑顔でやってきた子どもを一瞥すると露骨に嫌そうな顔をした。

「………………ふん、今日も来たのか。貴様も大概、暇じゃな」

「えへへ」

 あれから毎日のように獣の元へと自ら進んでやってくるようになった子どもは、どんなに獣が邪険にしても好意的な態度を崩さなかった。
 今まで見てきたどの人間とも違う態度に、何を考えているのか全く読めないことへの戸惑いと苛立ちを隠せない。

 いつの間にか「金色さん」だなんて勝手に呼ばれて、不快で仕方がなかった。
 以前、名前を聞かれた時に教えたくなかったので口を噤んでいたら勝手に名前をつけられてしまったのだ。
 いつか本当の名前を教えてくれるまで、とそう言って。

 最初は「狐さん」だの「獣さん」だのと呼ばれて嫌がった獣に、子どもがいくつか他にも候補を挙げ、最終的に獣が渋々認めた「金色さん」に呼び名が決まった。

 別に「初めてあなたを見た時に、あなたが金色に輝いていて綺麗だったから」と子どもが言っていたからではない、と獣は内心誰にでもなく言い訳をする。








 出会ってまだ間もない頃、獣は本気で子どもを殺そうとしたことがあった。

 人間よりも遥かに長い時を生きてきた獣はそれまで数多くの人間をこの目で見てきた。
 そんな獣でさえ理解不能な行動を取る子どもへの苛立ちが積もり積もって爆発し、ならばいっそ殺してしまおうと考えたのだ。
 封印されてはいるものの、幼き子どもの精神を殺すことなど容易い。
 だから獣は己が放てる最大級の殺気を放って言ってやったのだ。

「ーーいい加減にしろ。ここに来るなと何度も言うておるというのに……その喉元、掻き切るぞ」

 そう言って本気で殺すつもりで、子どもの喉元に鋭い爪という刃を突き立てて。
 だが、強烈な殺気に身体を震わせながらも子どもは真っ直ぐ獣の目を見て、ーー笑ったのだ。

「あなたに殺されるなら構わない」

 と、それはそれは嬉しそうに目を細めて。

 いっそ不気味なほど純粋な眼差しに呆気にとられ、毒気を抜かれてしまった獣は結局、子供を殺し損ねてしまう。
 いつでも殺せるからと自分に言い聞かせ、芽生え始めた感情に獣は蓋をして気付かぬフリをした。








 それからも何度か殺そうと試みたり、冷たく接してみたり、果ては無視したりと色々とやってはみるものの全く効果はなく、子どもは此処へ来るのを一向に止めない。

 何がそんなに楽しいのか、檻の側まで来てはニコニコと獣を見上げているか、時折ポツリポツリと子どもが一方的に話をするぐらいだ。

 話すといっても、部屋に閉じ込められ外の世界を知らない子どもは、今日は何を食べたとか、そんなことぐらいしか話題はなかったが。

 だが、子どもは決して言わなかった。
 自分が大勢の人間から虐げられていることも、毎日のように死にかけていることも。

 何故か言ってはいけないと、子ども自身が無意識に感じ取っていたからだ。
 まるでそのことを話してしまえば、せっかく出来た獣との繋がりが断ち切れてしまいそうで、獣との繋がりを失いたくない子どもは必死でそのことを隠していた。

ーー全ての原因が獣にあるとは知らずに。


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