暗部入りの真相
うちは本家にて。
イタチと父フガクが今、対峙していた。
「暗部ぅ? 二重スパイぃ?」
『はあ? てめぇふざけんなよ』という副音声がイタチから漏れ聞こえ、頬をひきつらせるフガク。
「そうだイタチ。引き受けてーー」
「だか断る!」
即答するイタチ。
「いいかイタチ、これは一族のーー」
なんとか威厳を出そうとするフガクだが、ブラコンを日々極めるイタチには通じない。
「父さん」
「なんだイタチ」
キリッと顔を引き締めるイタチに分かってくれたかと期待するフガクだったが。
「そんな面倒くさいもんに就いたらサスケとの時間が減るっ!」
またもやイタチに一蹴されてしまう。
「(め、面倒くさい!?)だがイタチ、一族のためーー」
なんとか自分が説得しなくては、このままではクーデター計画が上手くいかなくなってしまうと焦る。このままでは一族になんて説明したらいいかと頭を悩ませるフガクは知らない。
すでにイタチの変貌は一族に知れ渡り、『うちはの神童』から『うちはの変態』へと変わってしまったことに。
サスケを天使と崇め、始終サスケにハァハァしている様子を知る彼らが、イタチの毒牙にかからぬようにと、うちは警備隊がいつの間にか『サスケをあの変態から守り隊』に変わってしまってることをまだフガクは知らなかった。
「一族とサスケを天秤にかけたらサスケに決まってるだろう!」
「例え里とサスケを選べと言われてもサスケを選ぶ!」と、いっそ清清しい顔でイタチは告げる。
「(そんな、言ってやったぞってドヤ顔しなくても……)だ、だが、イタチーー」
「サスケはな、この世に舞い降りた天使なんだ! せっかく俺のために下界に降りてきてくれたというのにクーデターなんてやってたら下界が穢れ、サスケに悪影響だろう!」
何故かサスケを天使と崇める息子に頭が痛くなる。
「(いや、そんな真剣な顔されても……ああ……母さん……どうやらイタチは手遅れのようだ……はあ)」
「そして俺の使命はこのヨゴれ穢れた下界の中でサスケを守ること! 暗部なんてやってたら可愛いサスケが、下衆野郎に狙われるだろうっ。ああ、なんて可哀想に。そうなってしまったらサスケは心に傷を負い、心を閉ざしてしまうかもしれない! そうなったら父さんのせいだぞ」
想像したのだろう殺気立っていつの間にか写輪眼全開になっている。
それならとフガクは仕方なく最後の切り札を使ったーーイタチにとって絶対的なカードを。
「…………だがイタチ、いいのか? もしお前が暗部に選ばれたとなったらきっとサスケは喜ぶと思うぞ」
「(ぴくり)」
その言葉にイタチの動きがピタリと止まる。
「きっとサスケはキラキラした目でお前に言うだろう。ーー『お兄ちゃん、すごーい!』と」
その時、満面の笑みで『おにいちゃん、すごーい!』と頬を上気させるサスケの姿がイタチの頭の中でふと浮かんだ。
「(か、可愛い!)ごっほん。仕方ない引き受けよう!」
自分がした想像に、イタチは鼻から血を垂らしながら満足そうに微笑んだ。
「……イタチよ、鼻血が出てるぞ」
何故、自慢だった息子は、こうなってしまったのかとため息をついた。きっと何処かで頭のネジが2、3本飛んでしまったのだろう……はあ。
そして無事、サスケに暗部入りを報告したイタチは、彼の妄想通りのままのサスケの反応に、一生懸命鼻血を吹かないよう気合いで止めながら満足したのだった。