シスイ、ブラコンという生き物に出逢う


 ある日、思いつめた顔をしたイタチから二人きりで話したい事があると言われたシスイ。

 待ち合わせ場所の甘味処に着いたシスイは待ち人を探すと見慣れた背中を見つけた。

 テーブルに視線を落とし俯いたイタチに少し戸惑いを見せるが意を決して声をかける。

「……悪いなイタチ、遅くなった」
「いや、俺も今来たところだ」

 シスイはイタチの向かいに腰掛けると俯いたままのイタチと向かい合う。

 こんなに沈んだイタチは珍しかった。いや、むしろ初めてかもしれない。それだけ深刻な話なのかもしれないと顔を引き締めた。

「それで話ってなんだイタチ」
「……実は、シスイに相談したいことがあるんだ」
「珍しいな。イタチが俺に相談事なんて」
「……他に相談できる人がいなくてな」

ーー本当に一体どうしたんだ? イタチに何かあったのか? それとも任務のことか? いや、一族のことかもしれない。

「ああ。…………実はーー」

 ゴクリとシスイは無意識に唾を呑む。
 緊迫した空気が辺りを呑み込む。

「実はサスケがーーーー」
「! サスケに何かあったのか?」
「いや、」
「なら、どうしたんだっ」
「ーーーーサスケが、…………すぎて辛いんだ」
「? 悪い。よく聞こえなかった」
「だからっ…………サスケが可愛すぎて辛いんだっ!」
「は?」
「サスケはな、俺がアカデミーに行くときは寂しそうな顔でいつまでも俺が見えなくなるまで見送るんだ。毎日だぞ? 毎日! そんなことされたらアカデミーなんて行きたくなくなるじゃないかっ。サスケと比べればアカデミーなんかどうでもいい。だからもういっそのことアカデミーは止めようかとも思ったんだが、兄としてはサスケにそんなカッコ悪いとこ見せられん。サスケが俺に幻滅してしまうかもしれない……」
「イ、イタチ?」
「それだけじゃないんだ! サスケは帰ってくるときも必ず玄関の前で満面の笑みで俺のことを出迎えてくれるんだ。その笑顔がまた可愛くて、俺は毎回鼻血が出るのを必死に耐えているんだがーーーー」
「…………」

 ペラペラと語られる内容にシスイはポカンと間抜けヅラを晒してしまう。

 初めて見るイタチの姿に驚愕・唖然。
 あれ? いつもクールで真面目なイタチはどこに? は? え?

 混乱気味なシスイを置いてイタチは未だにサスケについて語っていた。

「夜が怖いからと枕を抱いて俺の部屋に訪れるサスケ! 一緒の布団に入ってきて安心したようにふにゃふにゃっと笑うんだ! お風呂もいつも一緒に入ってるんだが、小さな手で一生懸命自分の身体を洗おうとするサスケが可愛くてな。それに、いつも俺の後をついて回ってーーーー」
「お、おい、イタチ」
「ん? どうした?」
「いや、どうしたって。まさか、悩み事ってその事じゃないよな?」
「は? それ以外に何があるんだ?」
「いや、まさかそんなこととはーー」
「そんなこと!? そんなこととはどういう意味だ?」
「お、おい、待て、胸倉を掴むなっ。く、苦しいっ」

 襟首を掴まれ、ガクガクと揺さぶられるシスイ。

「いいか、サスケはな俺の目の前に舞い降りてきた天使なんだ。その天使が毎日毎日、可愛すぎて俺はいくつ心臓があっても足りない! こんなことは初めてなんだ。暗部の任務なんかよりも数倍辛いっ! 未だ反抗期らしい反抗期を見せず「イタチお兄ちゃん」と慕ってくるサスケ! 日に日に可愛さは増し、いずれはきっと女神になってしまうんだろう! その内、サスケのあまりの可愛さに死んでしまうんだ! だが、そうなってしまったら俺は死んでも死にきれん! そのためにーーーー」

 周囲も驚き目を見開くが、熱くなったイタチを止められるものはおらず……

「し、死ぬかと思った…………で、イタチはどうしたいんだ?」
「?」
「サスケが、その、可愛くて辛いんだろう?」
「ああ」
「なら、少し離れてみたらどうだ?」
「は?」
「い、いや。ほ、本気で睨むなって。つ、辛いんだろう?」
「駄目だっ! サスケと離れるとかそ、そんなことーー」

 ガーンという音でも出そうなほどショックを受けるイタチ。

「待て待て。何も家を出ろとか言ってるんじゃないんだから」
「…………」

 サスケと離れることを想像したらしいイタチは砂のように真っさらになってしまった。
 
「お、おい。イタチ?」
「……いやだ。サスケと離れるとか無理だ! だめだ! そ、そんなことしたら俺の天使との時間が減ってしまう! はっ! さてはシスイ、俺のサスケを奪う気だな!」
「は?」
「そうか! そうだったのか! 騙されるところだった。いくらシスイでもサスケはやらんぞ!」
「い、いや、別にいらないって……」
「なに! あの可愛いサスケをいらないとはどういうことだ!」
「あーだからーーーー」

 そんな会話の末、結局イタチはサスケと離れる方が辛いと今まで通りにサスケと接することになった。

 今日1日で1年分の疲れをどっと感じたシスイは知らない。ーーーーイタチの言動が年々変態化していくことを。そしてこれから先、永遠とイタチに振り回されることを。


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