ちょっと熱い位の体温と同じ優しさ

すっかり学校生活にも慣れ、半年があっという間に過ぎた。生徒達は忙しい。魔法に勉学に、ある者は任務に。ある者は恋愛に(?)まあとにかくすることが沢山あるということだ。

一人、そのやるべきことのうち勉学が危機的状況にある者がいた。

「誰かおれに勉強教えてくんね?」

ヤミに、落第の危機。

***

まあなんとなくわかってはいたけれど、ヤミは勉強が出来ない。ユリウスの差金で学校に入ったために、出来るのは実戦形式の授業のみ。
とはいえ教えてあげたいところだが、ナマエとて勉強ができるわけではない。むしろ自分も危うい。

「前のテストで赤がついた教科が10教科中10個だった」
「おま、それ・・・。やばいよ?」

勉強何それ美味しいの、とでも言いたげな顔のヤミからは、全く持って焦燥感というものが感じられない。それどころか、まあやばいやばい言ってるけど結局何とかなるんじゃね?という学生特有の謎の余裕がにじみ出ていた。

「ちょっとマジで勉強教えて」
「いや私が教えられることないと思いますけどネ・・・」
「いやこれ決定事項だから」

問答無用でヤミに勉強を教えることとなってしまった。運悪く近くにいたイジーも生贄となった。あ、これ勉強会の流れだ。絶対に勉強しないやつ。

「教える人間は多いほうがいいよな。おーい王族ー」

無礼極まりない呼び方でも反応してくれるのがフエゴレオンの優しいところ。冷たすぎる視線を浴びせてくるのがノゼル様の厳しいところ。

「どうした」
「今からおれに勉強を教えろや」
「それが人にものを頼むときの態度か?」
「教えてくださいお願いします神様仏様前髪様」
「貴様処刑するぞ」

ヤミとノゼルのせいで一気にその場が険悪になるので、私とフエゴレオンは毎度毎度間に立って取り持ち役を担っている。
その取り持ち役同士で苦労がわかるのか、私達は互いに同情しあっていた。

「場所は熱血大魔王の家でよくね?よっしゃ勉強勉強!」

怪しい。ヤミから進んで勉強するか普通。幾許の疑問を胸に抱きながらも私・イジー・フエゴレオンとノゼルはヤミに連れて行かれ、ヴァーミリオン邸に行くことになってしまった。

***

「王族えげつな」

豪邸だった。所々にあしらわれたヴァーミリオンの獅子のモチーフ達は、一頭いくらするのだろうか。王朝絵巻さながらに豪華絢爛。まあ王族だからだけど。

「突然の訪問失礼致しました。こちら、つまらないものですが・・・」

イジーが手土産を持参していた。やばいな、この流れは私もなにか渡さないといけない。

「あの、こちらもつまらないものなんですけど受け取ってください」

渡したのはたまたまポッケに入っていた魔道具。ポケットに入っていたものをはいこれどうぞなんてめちゃくちゃ失礼なのは分かっている。何も渡さないよりはマシ。いくらするか分からないし、何に使うかもわからないけれど。ただそれがたまたまだがライオンの形をしていたから渡した。

「あー、つまらんものですが」

勿論、そんなものないはずのヤミが渡したのはヤミのグリモワール。それ、冗談きついよ、誰も笑ってないよ。


中に通されても、豪邸だということには変わりなかった。もう紅蓮、紅蓮、紅蓮。紅蓮の獅子王。

「ここが俺の部屋だ」
「うおー」

すっげえな、とヤミが感嘆の声を漏らした。広い。

「フン、相変わらず悪趣味な家だな、ヴァーミリオン家は」
「・・・シルヴァ家こそ悪趣味ではないか?」

二人の火花が散って引火しそうなので消火しておく。

「ほら、勉強するんでしょヤミ。やるよ」
「チッ」

さっきまでのやる気はどこへ行ってしまったのか、ヤミは机に教科書を広げて鉛筆を持った。それきりだった。

「おいヤミ。折角来たんだ、やるぞ・・!」

ヤミのやる気の無さが、逆にフエゴレオンを刺激したようだ。目が燃えている。ナマエは松岡〇造を思い出した。

「ほら、ナマエも勉強だ」
「あ、はい!」

出来るフエゴレオン・ノゼル・イジーと出来ないヤミ・ナマエの二手に別れて第一回勉強会が始動した。
ノゼルとイジーは、厄介なヤミを教える事に。そしてフエゴレオンはナマエを。

「さあ、どこがわからないんだ?」
「えっと、全部」

恥ずかしながら、前の世界でも脳みその出来は良いとは言えなかった。そこはグレードアップして転生はしてくれなかったみたい。

「そうか・・、じゃあまずは・・」

必死に教えてくれるところ申し訳無いが、全くもって集中出来ない。こうやって間近でフエゴレオンを見てみると、なんかまつげ長いし鼻高いし彫り深いしいい匂いするし・・・の胸キュンてんやわんや。久し振りのドキドキを味わっているのである。

「大丈夫か?」
「え、うん」

話は殆ど耳を通り抜けて行ったが。なんとか手とり足取りで基礎はできるようにまで成長した。


「貴様、もうやる気ないだろう」
「ヤミったら教えても何一つ理解してない。もうお手上げ」
「いやいやいや助けて」

ヤミの方を見ると、もう教えることを放棄されていた。

「・・・・そもそも、ヤミがなんで勉強会するなんて言い出したのか、私疑問に思ってたんだよねー」
「本当はさ、夜遅くまで勉強してついでに王族の晩餐を頂こうとか考えてたんでしょ」

図星。バレたヤミはケロッとして頭を掻いている。

「チッ、バレたか。じゃ、そういうことだから俺もう帰るわ」
「いやどういうことだよ」

またな、と手を振り帰ろうとするヤミだったが、ヤミの目の前に、行く手を阻む女獅子がいた。

「貴様、男なら、一度言った事は最後まで実行せんかァアアア!!!」
「はい!!」

反射的に返事をした後、ヤミは部屋に放り出された。

「・・・ヤミ、晩飯は抜きで勉強するぞ」

鬼スパルタ教師、フエゴレオンの熱烈指導が始まった。

***

テスト後。

「テスト赤点無かったよ!!!」

テストが返ってきて、真っ先に報告したのはフエゴレオンだ。あれから度々勉強を教えてくれていた。

「そうか!ナマエが頑張ったからだな」

おめでとう、とにっこり微笑むフエゴレオンにつられ、ナマエもにっこり笑った。あれ、なんだろうこの、、




「俺も赤点無かったぜ」
「本当!?」
「見ろよ」

全部、30点。赤点ではないがほぼ赤点な点数。逆に全部そうなるのは凄い。

「貴様・・、あれだけ教えてやったというのによくそんなふざけた点数を取れたな」
「いやあー、あなたのお陰ですよ前髪チョココロネ様」
「殺す」

ヤミとノゼルが仲良くなれる日は来るのか・・・。





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