いざイケメンを目にすると、語彙力が失われるらしい。
わたくし、ナマエ・ミョウジも、今そんな状態でございます。
「おい、何か言ったらどうなんだ」
シルヴァ家長男、ノゼル・シルヴァ。あの凄い前髪でさえも正当化してしまうほどの美男子っぷりである。
そんな彼に、教室はどこなんだと聞かれている。ナマエはフエゴレオンのときよりも緊張してしまって、硬直中。
「すみません!!教室はここここちらです」
ひええええ!私!ノゼル様を案内してる??ていうか二人きり?やばない?
足取りが覚束ない。歩き方が気持ち悪いって怒られたらどうしよう。
でも大丈夫。私は彼が究極のツンデレだということを知っているから・・!!
「ナマエ・ミョウジだな?」
「え?あ、はい」
まさかの認知されていた件について。
「授与式で一度見かけた。貴様のところの魔道具はなかなかだ」
「あ、ありがとうございます!」
貴様呼びされてもイライラしない人はノゼル様だけかもしれない。しかもお褒めの言葉を頂いた。家のだけれど。
「こちらです」
案内完了。今までは騎士団の任務で学校を欠席していたため知らなかったが、ノゼルも勿論一番上のクラスだったので身分の差はあれどクラスメイト、ということになる。
「おはよー」
やっと仲良くなってきたクラスのみんなに挨拶されるので、ナマエも返していく。
「おはようナマエー。・・ってノゼル様と一緒に登校してきたの!?」
クラスにどよめきが走った。これってもしかして"夫婦で登校してきたのかよー!!ヒューヒュー!"みたいな中学生のノリ的な??
「そうなのか?」
フエゴレオン様まで!!あ、敬語は外すって約束したんだった。フエゴレオンまで!!
「ちょっと案内しただけだってば!」
ノゼル様も至極迷惑そうに顔を歪めている。なんかスイマセン。でも私悪くない。
「・・・貴様は敬語も使えないのか?」
「へ?」
ああ、ノゼル様は私がフエゴレオンとタメ口で話していることが嫌なのか。同じ王族ですしね。
「いや、俺が敬語を外してくれるように言っただけだ」
「ほう、ヴァーミリオン家は貴族と馴れ合うようになったのか?」
「なっ・・!!」
刹那、二人の背後に大きな獅子と鷲が。そして凄まじいマナのぶつかり合い。学生にしてこのレベルだ。
「やはり次期国王はシルヴァ家からだ」
「いいや、ヴァーミリオン家からだ!!」
いつの間にか私の敬語問題から次期国王の話へと発展している。壮大だ。そこにメレオレオナ様もやってきてクラスではマナが大量に放出されている。ワチャワチャしてもう授業どころではない。
「毎日これじゃあ、いつかこの学校が壊れそうね」
「そうだね・・」
ナマエはため息をつかずにはいられなかった。つーかそれにしても美しすぎだろ、ノゼル様・・。
***
ようやく二人の王子も落ち着いた頃、授業が始まる。複雑な数学まがいの内容で、正直ナマエはついていけていない。
「(今日はヤミに何のパンを買っていこうか・・・)」
最近、学校でも噂になっている。海岸に漂着した異邦人がいると。そして度々その異邦人に食べ物を与えている物好きの貴族がいると。・・・あれ??私か??
だがナマエは納得できなかった。なぜ食べ物をあげただけでとやかく言われなければならないのか。公園のハトじゃあるまいし。
最後の授業が終わり、イジーに買い物に誘われた。
「めっちゃ行きたいんだけど、どうしても用事があって・・!ゴメンナサイ!」
「前もその理由だったわよね・・。・・異邦人に食べ物与えてる貴族って、ナマエでしょ?」
「げ」
分かりやすく変な声が出た。イジーに失望されただろうか。だがイジーの顔はニヤついているだけだった。
「あ、やっぱりー?でも私は何にも思ってないわよ。困ってるんなら、助けてあげないと。たとえそれがクローバー王国の人じゃないとしてもね」
「イジー様・・!よっ、魔法騎士の鑑!!」
「よしてよ」
でね、とイジーが顔を寄せてきた。
「私も会いたいんだけど。その異邦人さんに」
「え、なぜ」
「なんか最近のタイプが外国人なの。クローバー王国の男に魅力を感じなくなってきている今日この頃・・」
「な、ナルホド・・」
そんなに言うならば、と、ナマエはヤミとイジーを会わせることにした。
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