質問
たまに騎士と遭遇し、戦いながらもエステルの部屋の前に着いた。
エステルは私たちに振り返る。
「ここがわたしの部屋です。
着替えてきますので少し待っていてください」
「わかった。手短にな」
「いってら〜」
ふらふらと手を振って見送ると、エステルは笑みを返して部屋に入った。
視界の端では、ユーリは周りに騎士がいないか確認し、
エステルの部屋に向かい歩き出す。
「ちょ・・・」
ユーリが扉の前まで来ると、エステルが扉を開ける。
・・・片手に剣を持って。
エステルは、その剣を扉の前に突き刺す。
「こわ・・・」
「念のため」
「心外だな。覗くわけないだろ」
「フレンから『会ったら用心するように』って、言われてますから」
「余計なこと吹き込みやがって」
呆れるユーリをほっといてエステルは再び部屋に入った。
私はといえば、見事に床に突き刺さっている剣を見つめ、密かに恐怖していた。
「笑顔で剣突き刺すって・・・」
「ったく。フレンのやつどういう教育してんだ」
エステルの言う『用心』は怖い。心に刻んでおこう。
ここまま立っているのもめんどくさいので、
壁に背を預けズルズルと床に座る。
「あー・・・。暇」
「・・・」
「・・・どうしたの、ユーリ」
「・・・」
ぼんやりと向かいの壁を見ていたら、ふとユーリが黙っていることに気が付いた。
声をかけて見るが、無視。
「・・・考えるのはいいけどさ、無視すんのやめよう?」
「・・・なあ、ユイ」
「おおっと、言葉は発したが無視は変わらずか。・・・で、何?」
ユーリは考え事を始めたら人の言葉は聞かない。
そう考えておこう。決して私だから無視してるとかじゃないよな、うん。
「おまえ、何か隠し事してるよな」
「・・・え?」
何を言い出すかと思えば、隠し事?
しかも、疑問じゃなくて断定されてる。
「・・・なんで?」
「この短時間で魔術が使えること、どう考えてもおかしいんだよ」
ユーリはゆっくりと私に近づいてくる。
その瞳は真剣で、私を逃さない。
「魔術ってのは理論を学んで、魔導器(ブラスティア)があって初めて使える。
でも、おまえの世界では魔導器(ブラスティア)も魔術もない」
ユーリは私の目の前まで来ると、腰を落として私と目線を合わせる。
「どういうことだ?」
・・・驚いた。
何に驚いたってこの短い間にそんなに分析していたなんて。
っていうかそんな素振り全然見せなかったのに。
「・・・」
どうしよう。
確かに、隠し事はしている。
これから何が起こるのか全て分かっている。
でも、これを言ってしまえば未来は変わってしまう。
私の一言で、世界が大きく歪んでしまう。
そんなの、私が耐えられない。
「・・・隠し事っていうか・・・」
「・・・」
「魔術に関しては私も細かいことはわからない。
でも、なんとなくだけど、イメージだと思う」
「イメージ?」
「うん。騎士を倒した時も、ザギを倒した時も。
どっちも頭にイメージしたら術が発動してた」
「・・・要するに、想像で術が発動できる、か・・・」
もうひとつ、隠していることがある。
この世界に来たばかりの時もそうだったが、
それは、私が魔導器(ブラスティア)無しでも術が使えるということ。
先ほど、ユーリたちにばれないよう魔導器(ブラスティア)を見ながら術を使った。
すると、やはり魔導器(ブラスティア)は反応せずに術が発動した。
もしかしたら、私がこの世界の人間ではないことと関係があるのかも・・・。
「・・・ふーん」
思考の渦から現実に戻したのは、
イマイチ納得の言ってないようなユーリの声だった。
「・・・?」
「想像、ね」
「・・・何、その含みのある言い方」
「別に」
別に、って絶対何かあるだろ、おい。
言っても何も答えないであろうユーリに諦め、ふとこの状況に疑問を持った。
「・・・あの、ユーリさん」
「ん?」
「そろそろ離れてくれませんかね?」
「なんで?」
「なんで?って・・・。むしろなんで?」
質問が終わった今、こんなに近くにいる必要ないだろう。
つーかマジで近い。美形が目の前に。
そろそろ俺の心臓が悲鳴を上げる時間だ。
「・・・」
ユーリが動くのをじっと待っていると、ユーリは何を思ったのか口角を上げる。
わあ・・・嫌な予感。
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