04
ふと目を開けると、えらく不機嫌そうに眉を寄せて私を覗き込む彼の顔が真っ先に映った。少しだけ視線が絡まり、彼は物凄い勢いで身を引いて椅子に座り直した。私も体を起こそうとしたけれど上手く力が入らず、思うように動かせない。それでも何とか起き上がった。
「これなら食えるか?」
「これは?」
「林檎のすりおろしだ」
「食べてみます……」
器を受け取ってスプーンで中身を掬う。口元まで運べることは運べるのだけれど、昨日の吐き気が思い起こされて口に入れる決心が付かない。どうしようかと悶々と悩んでいると右側から舌打ちが聞こえ器もスプーンも取り上げられた。
「上向いて口開けろ。目は瞑っとけよ」
「へ……?こう、ですか?」
「何も考えずに流し込め」
「え、ん……!?」
唇に柔らかいものが触れたのと同時に半液体状の個体が流れ込んできて、そのまま喉を通っていった。久しぶりに胃の中に物が入った感覚がする。と思っているのも束の間、さっきと同じようにして次々と林檎の味が口の中に広がっては胃へと流れていく。
「何ともないか」
「……心臓が止まるかと思いました」
「何だ?」
「何でもないです、大丈夫です」
少しの吐き気を抑えながら答える。彼の問いに対しての一言目は声が小さくて聞こえなかったらしい。最も、聞こえないように言ったから当たり前なのだけれど。それにしても……。恥ずかしくて顔が見れない……。彼は平気なんだろうか……。
「大丈夫なら寝てろ」
「はぁい……」
ぽす、とベッドに倒れる。だけどなかなか目を閉じることができない。瞼の裏にAKUMAの魂の記憶が張り付いているような気がして……。思い出すのがとてつもなく怖かった。これは兄をAKUMAにした私への兄からの呪いだ。背負っていかなければならないことくらい、わかってる……。
「早く寝ろ」
「あ、あの、えっと……ユウ様は、どこで寝るんですか?」
「ここに決まってんだろ」
「え、椅子?」
少しでも恐怖を紛らわそうと、だらだらと話を続けようとしたらいいから寝やがれと怒りマークを額に浮かばせて言われ、右手で瞼を閉じられた。その手が離れることはなく、じっとそこに置かれたままだ。温かい……そう感じて私はすぐ眠りについた。
(2018.06.12)
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