03
次に目が覚めると、私はベッドの中にいた。体中から傷が治る途中のような鈍痛がする。痛みに耐えながら体を起こすと私の前に現れた黒髪の人がベッドに突っ伏して眠っていた。
「私……何が、っ……!」
走馬灯のように記憶がフラッシュバックする。あの時の一連の戦いを――謎の物体から見えた魂を思い出して、急にズキズキと頭が痛み出す。それとともに強烈な吐き気に襲われて、目に付いた窓を開けて顔を外に出した。が、出てきたのは胃液だけだった。
「は……っ、はぁ……っ」
「大丈夫か?」
落ち着いた頃、後ろから声をかけられる。私は振り返って首を横に振る。直後床にへたりこんでしまってそのまま涙が零れ落ちる。小さく舌打ちが聞こえて、私の体は宙に浮かんだ。彼が私を横抱きにしてベッドへと運んでくれた。
「お前、その額のペンタクル……」
「……?」
「AKUMAの魂が見えるのか?」
「あく、ま……?」
彼は“あくま”とは何なのか、自分たちは何者なのか、持っている武器について、それを説明した上で私は何者なのか、そして――この左目について、話をしてくれた。私はイノセンスの適合者の一人で、AKUMA……ひいは千年伯爵と戦わなければならないらしい。
「お前、名は?」
「ミラベッラアリーチェ」
「俺は神田ユウだ。明日、ここを発つ。飯食って傷治せ」
「……っ」
飯、の言葉に急に吐き気がした。またしてもあの時の戦闘が――いや、AKUMAの魂が脳内を駆け回る。井の中には何もない、吐き気だけがして胃液さえも出てこない。彼が舌打ちをしたのにも気づかずに私は掛け布団ごと膝を抱えた。
「食べれそうに、ない……です、」
「チッ。……待ってろ」
彼はそう言い残すと部屋を出て行った。私は膝を抱えたその体勢のままベッドに倒れ込んだ。少しだけ何か料理の香りが漂ってきてまた吐き気に誘われる。ぎゅっと小さく丸まって吐息を必死に抑えながら、私は彼が戻ってくるのをひたすら待ったが、気づかないうちに眠ってしまっていた。
(2018.06.10)
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