01
「神田!?」「ユウ!?」
「俺のファーストネームを呼ぶんじゃねぇ」
突然響いた大きな声。だけど力が入らなくて顔を上げることができない。何をそんなに驚いているのかと耳を澄まして聞いてみると、どうやらこの状況に驚いているらしい。ユウ様が女をおぶっている、というこの状況はユウ様の一生に一度あるかないかくらい珍しいそうだ。
「その子は?」
「エクソシストだ」
男二人の小さな声が聞こえる中、不意に女の声がした。相変わらず私は顔を上げることができなくて確認できない。きっとみんなユウ様の仲間だ。そうだ、とあることを思い出して、力を振り絞ってユウ様の背中から少し身を起こす。ユウ様の肩に乗せて体重を支える腕が震える。
「おい、無理するな」
「だけど……お礼、言いたい。モヤシ、さま……」
「聞き捨てなりません!僕はアレン・ウォーカーです!」
「アレン、さま……ありがとう、ございます……」
顔を上げると、白髪に少し幼い顔の少年。左目(正確には額の左側)には私と同じもの。疑っていたわけではないけれど、ユウ様の話はやっぱり間違ってなかったんだ。この人も私と同じように呪われている……。
「その顔、」
「アレン様と、同じです。AKUMAに呪われて、AKUMAが、見えます」
そこまで言ったところで限界が来て、肩から手が滑る。ユウ様の背中に受け止められて小さく舌打ちが聞こえた。止まっていた歩を動かしてどこかへ向かう。だんだんと意識が朦朧としてきて、途中でプツリと記憶はなくなってしまった。
「アリーチェ」
「ん……?」
誰かに呼ばれた気がして目を開ける。靄がかかった世界に黒髪が映り次第にはっきりと見えてきた。……ユウ様だ。さっき私を呼んだのも……?辺りは清潔感のある白で統一された部屋のようで、いろんな人が何かを話している。
「大丈夫か?」
「ユウ様……、はい、大丈夫です。何だかエネルギーが戻ってきたみたいに感じます」
「点滴、してるからな」
「本当だ。ユウ様が?」
んなわけねぇ、と返ってきて、意識を失ってからの出来事を教えてくれた。あのあとユウ様がここまで運んでくれたらしく、その後の治療は医療班の人がしてくれたそうだ。私は二日間眠りっぱなしだったと、ユウ様は追加して言った。
「ありがとうございます、ユウ様」
「……ユウでいい」
「え?」
「二度は言わねぇ」
「はい!ありがとうございます!」
顔を逸らしたユウを見ていると、一際賑やかな声が聞こえてきた。それがあの時の三人だとわかった時には、もう既に目の前にいた。私と同じ目を持つアレン・ウォーカー様。隻眼のラビくん。ショートボブ美少女のリナリーちゃん。
「そういや、ユウが任務で回収したイノセンスがアリーチェに適合したのか?」
「生まれた時から体にイノセンスを持っていたみたいです。背中に翼の痕があって……」
「僕と同じ……」
「大切な人をAKUMAにしてしまったとき、初めて発動したんです」
私は記憶を思い起こして、教団に入るまでのことを少しずつ話し始めた。その日は何度目かの兄の命日だった。日に日に兄への想いは増す一方で、私はいつの日からか兄が生き返って欲しいと望むようになっていた。そんな気持ちを抱えたまま、お墓参りへと出かけた。
(2018.06.06)
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