アンネロ(稲妻)






 自室、それもベッドの上からでしかアンジェロに電話を掛けないのは、酷い手汗を吐くような心情を落ち着けるための、ネロなりの手段だった。
 しかし明るい"チャオ"が聞こえると、どんなに正常な心臓も、すぐさま異常になってしまう。
 鼻と口から短く酸素を吸う。効き目なんてたかがしれてるが、始めの言葉を吐き出せる程度の勢いはつく。


「もしもし」

「あ、もしかして声変わった?」


 ネロは苦笑を浮かべて、自分の喉を撫でた。


「よく分かったな。変わったなんて自分でも信じられないのに」

「すごいでしょ?こんなにちょっとの違いに気づくなんて」

「フン。愛の力があれば当然だろ?ちなみにお前、五センチくらい背が伸びてないか?」

「あ、すごい。五センチと三ミリ伸びた」

「くっ。ただのあてずっぽうだったのに」


 さすがは愛の力だ、笑いすぎてベッドまで揺れた。


「あとね、髭も生えてきたよ」

「なんだ、濃いのか?」

「今のところはまだ薄いよ」

「そうか」

「ほっとした?」

「別に。どうもしないさ。お前が大男になろうが髭達磨になろうが、関係ない――不潔なのは嫌いだけどな」

「ふーん、そう。僕もネロの声が低くなっても、背が高くなっても気にしないなあ」

「お生憎様一ミリも伸びてねぇよ」

「あ、やっぱり?」

「――チッ」


 舌打ちの意味とは真逆の口元は、ハートマークの代用品のアルファベットのような形に歪む。ネロが眉を寄せたのは、はたして失礼な言葉のせいだけか。
 ごろり、とベッドに身を投げ出す。


「髭の生えたお前が見てみたいな…」

「ネロは今僕の鼻くらいまでしかないんだよね。うわ、可愛いっ!抱きしめやすそう!」

「抱きしめろよ。抵抗はしないでやるからさ」


 ネロは蝶のように目を閉じた。自分の旋毛にアンジェロの鼻先が沈む、目蓋の裏にそんな未来を描いてみる、ああもう心臓にギブスでも付けてしまおうか。
 会いたいな、衝動のまま呟いた言葉が電波の中で絡まって、おかしくて、二人して笑った。





嘯アの恋も成長期





最近成長期ネタが楽しすぎる。
ヒゲとかすね毛とか声変わりとか美味しいです。





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