速浜(稲妻)
夏空の下では、人は開放的になるらしい。
そんなのは嘘だ。
何故なら俺は青空の下を歩いていてとても暑いと思っているけれど、ワイシャツのボタンはきっちり上まで止めてるし、袖も捲ったりはしていない。隣を歩く彼とは正反対だ。
「今日もあっちーよなー」
「そうですね」
ぽたぽたと額から、もしくは腕から汗が落ちていく。乾きさえしなければ、今頃アスファルトの上には俺たちが歩いて来た道標が出来るのだろう。まるでヘンゼルとグレーテル。
しかしもう帰り道などは分からない。それならいっそ全部夏空のせいにして、君の手を握ってしまえばいいのに。
俺の左手にはアイス、彼の右手にもアイス、二人の間にある手は空のままメトロノームのように揺れている。
「あの、浜野くん…」
「んー?」
「……あのっ」
開放されるかに見えた俺の願望は、背中から鳴り響いたクラクションの音に押されて消えた。
いっそこんな音が届かない所まで君の手を引いて行きたいですよ。
もう爪先さえも見せないちっぽけな勇気の代わりに、俺は第一ボタンを外して、ため息をついた。
嚔ト少年Aの葛藤
11.12/24
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