21(OP)






 冬島の気候区域内の空では、遠くの星までくっきりと見えると知ったのは、モビーに乗って間もなくのことだった。
 エースは、見張り台の中でそんな夜空を見上げている。
 膝を抱えているのは、寒いからではなくて、鼻の奥がツンとするのも、寒いからじゃない。ここまでくればその人差し指を火に変えたのも、寒いからじゃないことが分かる筈だ。
 優しい灯りが欲しかった。自分からここに逃げておいてなんだけど、この場所は少し寂しすぎる。


「……馬鹿なこと言っちまったな」


 今考えるとあれは酷い我が侭だった。頭を冷やしてみるとよく分かるが、すぐさま感情を燃やしてしまうその時はもう自分が世界の全てで、周りなんて見えなくて、エースとは違いいつだって冷静なマルコはため息混じりに笑っていた。それが子供扱いされてるようで腹が立って、癇癪を起こして飛び出したのだ――馬鹿と、もう一度自分を罵った。


「許して…くれっかな…」


 無理かも、そんな思いを孕んだエースの吐息が白く舞う。


「――え…っ?」


 確かマッチの火の向こう側に幻を見る童話があった筈だ。マッチ売りの少女と言っただろうか。ではこれも幻?
 エースは霞みと炎の先に揺れる青い光を、縋るように見つめた。
 青い光は星のように幻想的で、しかしそれよりも大きい。
 いいのか、許してくれるのか、半信半疑の視線まま、立ち上がった。炎の揺らめきが、ただの節くれだった男の指に変わる。
 もしこれが幻ではなかったら、エースは腕を左右に開けて、そっと息を殺した。





嘯ヌうかその光だけは消えないで




11.12/22





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