世界で一番だいっきらい


キョンくんは僕のベッドに寝転がり携帯をつついていて、僕は飲み物を取りに行ってからその横に腰掛けた。

何故、平日の午前中にこんなだらだらと過ごしているかと言えば、春休みであるからで、彼曰く春休みは休む為にあるからだ。

僕としては、彼と何処かに出掛けたいと思わないでもないが、でも、まあ。
こんな風にゆったりと、二人の時間を過ごせるっていうのもいいと思う。

携帯をかちかちとつついていた彼は、突然何か思い立ったのだろうか、携帯を閉じ、むくりと起き上がり僕の隣に座って。
僕の服の袖を軽く引っ張ってきた。
こんな些細な仕草さえ愛しく感じて、自然と僕の頬は緩んでしまう。

「なあなあ、古泉」
「はい、何でしょう?」

「……俺の事、好き?」

な、ななななな……っ!
そんな小首を傾げながら可愛い質問しないで下さいよ、もう僕何しでかすか分かりませんよ!?

そんな僕のやましい気持ちを感じ取ったのか、彼はじろ、と僕を睨み付ける。
ああ、そんな上目遣いで睨んだって僕をそそるだけ……ごほんごほん。

折角彼がこんな素直に尋ねてくれたんだ。
ここはしっかり僕の気持ちを伝えたい。

「……好き、です。とても」

「ふーん……」

照れ臭いのだろうか、そっけない返事をしてからふい、と視線を逸らされてしまう。

何と言えばこっちを向いて下さるのでしょうか……と暫く考えてみるが、僕が声を掛けるよりも先にキョンくんはくるっとこっちを向いた。

にこー、と何処か悪戯っ子みたいな笑みを浮かべていて。




「古泉、嫌い」



「……はい?」


「だから、嫌い」


ぐさ。

言葉が胸に刺さる、という感覚を味わった。
これは痛い。

でもきっと何かの冗談、もしくは照れ隠しでしょう。

キョンくんってば、よく僕の冗談は笑えないなんて言うのに、あなたの冗談の方が笑えませんって。


あはははは。



………




「う、嘘ですよね?」
「嘘じゃない。世界で一番嫌い」

だから何でそんな笑顔で嬉しそうに言うんですか、俗に言うツンデレですか。

「僕、何かしました?」
「別に?」
「では何故……」
「嫌い嫌い嫌いだーいっきらい」

流石にそこまで言われたら、僕だって傷付きますよ。
しかもなんで楽しそうなんですか。

愛らしい笑顔で大嫌いなどとひどい言葉を連呼してくるキョンくん。

なんですかそれもうツンデレの域越えてますよ、もうツンですらないです。

ずーん、とうなだれて分かりやすく落ち込んでしまった僕を見て、彼はくすりと笑った。

「なんだ、落ち込んでるのか?」

「当たり前でしょう……!なんでそんなにひどい事言うんですか……っ」

何が面白いのか、彼はぶはっと笑う。

そして、左手で僕の頭を撫でる。
もう、そんなので誤魔化されたりなんかしませんからね。
暫くさらさらと髪を梳いていた人差し指がふと離れ、ちょいちょい、と僕の横を指差す。

「何ですか……カレンダー?」

目覚まし時計の隣にある小さなものだ。
あ、そういえば今日で月が変わったのにまだ捲っていなかったな。

ベッドに体を乗り上げ、もそもそと座ったままの体制でカレンダーの前まで行き、ぺら、と捲ってみる。

と。

「あ……!」

4月、1日。

エイプリルフール、だ。

と、いう事は……


「ははっ、引っ掛かったな、古泉」

ドッキリ大成功!とでも言いたげな表情だ。

やられた。

「驚かさないで下さいよ、もう……」
「あははっ、悪かったって」

でも、と彼は続ける。

「今のは気付かないお前も悪いぞ」
「え……?」
「俺が、お前の事嫌いなんてないだろ?」

「わ……っ!」

ぐい、と衿元を掴まれ引き寄せられて、そのまま強引に唇を奪われる。

「ん……っ」

「っは……、嫌いな奴と毎回こんな事するとか、ないだろ、普通に」

僕の口元を親指で拭いながらそう言い、やれやれ、と溜息をつく彼。

本当にあなたはいつも可愛い事を言いますね……でも、なんかちょっと悔しいのですが。
……仕返し、しちゃいましょうか。

「そうだ、キョンくん?」
「ん?」
「さっきの全部嘘なんですよね?」
「ああ、そうだが」
「……では、さっきの言葉、全部逆の意味で捉えちゃっていいですよね?」
「まあ、そうなるな」

さっきどれだけの事を言ったのか、多分彼は覚えていないだろう。
さらっと認めましたよ。


「では、あなたは、僕の事好きで、世界一好きで、好きで好きで好きでだーいすき、なんですね?」

「な……っ!」


誰がそんな事言ったんだ、と慌てる彼。

「だって、逆の意味にしたらそういう事になりますよ?」
「いや、さっきのは、つい、無意識で……!」
「無意識に出た言葉ほど、本音だったりしますよね?」
「う……」

言い返す言葉が出て来なかったのだろうか、彼は顔を真っ赤にして黙ってしまった。

「ねえ、キョンくんってば、黙ってちゃ分かりませんよ?」

「う、うるさい……!」

ばふ、と何か柔らかい物体が飛んで来た。
顔面ストライクですよキョンくん。
どうやら手元にあった枕を投げられたらしい。

……少し意地悪しすぎたでしょうか?
そう思いつつ、枕を抱きしめてからそーっと彼の顔色を伺おうとすると。


「……まあ、否定はせん」


そう呟くように言ってから目を逸らされる。

全くもう、あなたって人は……!


ぎゅう、と彼を抱き寄せてみても、まだこちらを見てくれない彼の耳にキスを落とす。

「僕、例えエイプリルフールでも嘘はつけません。だから……大好きです、キョンくん」

そう耳元で囁くと、

「……俺も」

と、小さな声で返ってくる。


それが嘘じゃない事を、僕はよく知っている。








__________

2010.04.01

エイプリルフールネタでした。
教習所で全部書いたよ(笑)

ちょっと小悪魔なキョンとか、無自覚で古泉に告白しちゃってるキョンとかいいと思いませんか!←
反逆のヘタレ古泉とかどうですか!←

そんな話です(違

春休みも二人はのんびりらぶらぶしてるといいと思います。






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