言って。


すみません、あなたを困らせるだけだと分かっていても、どうしても今聞きたくて仕方がないのです。

放課後の、誰も居ない教室。
正確に言えば、あなたと僕以外、であるが。

「古泉、いきなりどうしたんだよ」

困惑の色を顔に浮かべている彼。その頬が赤く染まっているように見えなくもないが、恐らくそれは夕日の所為なのだろう。

「あー……えっと、」

気まずそうにそわそわし、自分の髪を触る仕種を見せる彼。
言葉を探そうとしているのが分かる。

ああ、ただの僕の我が儘の為にあなたを悩ませてしまってごめんなさい。

「どうしたんだ、突然。……何かあったのか?」

「……いえ、別に。何もないですよ。これはただの我が儘です」

特別何が起きた訳でもないのは本当だ。
僕の心が狭いのが原因なのだから。

朝比奈さんと話している時の、彼の緩みきった微笑み。

長門さんに対して向けられる、温かい視線。

やれやれ、と言いつつも涼宮さんを見守る優しい彼。

それらを隣で見ているのが、時折、ものすごく苦しくて。

あなたが僕を置いていってしまうような、そんな気さえしてしまうのです。

だから、あなたの気持ちが少しでも僕に向いているのだと、感じさせて欲しい。

あなたの中に僕はちゃんと存在しているのだと、教えて欲しい。

ただ一言。
古泉一樹が好きだ、と。

その言葉が欲しいのです。

なんて。

女々しい事を言っているのだという自覚はあるのですが。

それでも、今の僕はそれを望まずにはいられないのです。

「そんな恥ずかしい事言えるかっ!」
「でも僕は聞きたいです」
「……後で、じゃだめか?」
「だめです」
「どうしても、か?」
「勿論です」

話はずっと平行線を辿ったままだ。
……余程恥ずかしいのだろうか?
しかし、駄目だと言われる程、その一言が欲しくなる。

「お願いです……聞かせて」

「でも……だって、……人が来たらどうするんだよ」

ああ、そんなに頬を赤らめて。
これは、夕日の所為だけではないと思ってもいいのでしょうか。

「別にいいじゃないですか……やましい事をする訳ではないのですから」

ね?と、耳元で囁き、抱き寄せながら頬をする、と撫でると、あ、と彼は魅惑的な声を漏らす。

「ふふっ、このまま悪戯しちゃいましょうか……?」
「ばか、止めろ……っ!」

跳ね退けはされなかったが、瞳をぎゅうっと閉じて体をふるふると震えさせている。

それは、羞恥からなのか、恐怖からなのか、それとも期待からなのか。

思わずくす、と笑みが零れたが、彼に睨まれてしまったので取り敢えず彼を解放した。


「ばか……そういうのは後にしろ……」



「……え?」


後、とは。
彼はこの後どうする気だったのだろうか。


「……あ、」

彼も自分の言葉に含まれた意味に気が付いたようで。

今のはただの妄言だ、忘れてくれ!と彼は言うがもう遅い。
今更撤回はさせませんよ?

「違……っ、今のは思わず口が滑って……」

「そういう時の言葉ほど、本音だったりしますよね」

「う、うるさい……!にやにやするな!」

ばか、と怒られてもちっとも恐くないですよ。
寧ろ可愛くて、もっといじめたいという衝動に駆られてしまいます。

「……そんな事言うなら、もう言ってやらないぞ」

「……はい?」

「……お前が言って欲しいって言ったんだろうが」

一度しか言わないからよく聞いとけ、と言われ、顔を近付けられる。

あなたからそんな事をするなんて珍しい、とか言う余裕なんて僕にはない。

だって。

「古泉……その、好きだ。大好きだから、な?」

と、こしょこしょと耳元で告げられる。

「き、キョンくん……」

それはもう、とびっきり優しい声で。

「だから、もう泣きそうな顔とかするな」

折角のイケメンが台なしだぞ、と彼は笑う。

「え……そんな顔してました?僕」

「ああ。……何考えてたんだか知らんが……勝手に一人で悩んで落ち込むな」

ぽん、と彼の手が僕の頭に置かれる。
撫でられるのが擽ったくて、でも気持ち良くて。
今まで勝手に何を一人で不安になってたのだろうか、とさっきまでの自分が馬鹿らしくなる。
こんなにも彼は僕を想ってくれているじゃないか。と、少しは自惚れてもいいんですよね?

「キョンくん、僕も大好きです……!」
「分かってるさ」

ああ、だけど。
大好きだと思えば思う程、些細な事で苦しくなってしまうのです。
僕の考えている事を話してしまえば、きっとあなたは呆れて笑うのでしょうね。
でも、これもあなたを思うが故、なので許して下さいね?



「さて、あなたから可愛い言葉も聞けた事ですし、今夜は帰しませんよ」

「な、何故そうなるんだ」

「おや?……誰かさんも期待していらっしゃったみたいなので」

「う……」

「……行きましょう?」

「……ああ」

こく、と頷いたっきり恥ずかしそうに俯いた彼の手を取る。



……もっと、聞かせて下さい。
僕の事が、大好きなのだと。








__________

2010.02.10

好きだ、と言うのが恥ずかしいキョンとこそこそ話が突然書きたくなり、勢いだけでやっちゃったもの。
最初はもっとぴゅっあぴゅあにしてやんよ♪な予定だったのですが、古泉が勝手に暴走しました、はい。
元々古泉の家には寄る予定な設定です、一応。
それで密かに期待してるキョンとかいいと思います^^←






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