1月5日。


「明けましておめでとうございます、キョンくん」

「ああ、おめでとう……」

「さあ、寒いですから早く上がって下さい」

「おう」


こんな挨拶を交わす今日は1月5日。
本当であれば、元日に会いたかった……もっと言えば、年越しの瞬間だって、二人で過ごしたいと願っていたのだが。
年末には機関への年間報告だの、会議だの面倒臭い行事が立て続けにあって。
彼は僕の家で待ってくれると言ったのだが、暫く帰れなさそうだったので、こちらに着いたらすぐにお迎えに上がります、と断った。

そして僕が帰ってきたのは3日だったのだが。

3日は、両親と共に妹さんを連れて県外の親戚の家へ行くのが毎年恒例の行事らしい。

で、今さっき親戚の家から帰って来た彼は、すぐに僕の家へ駆け付けてくれたのだ。

息が乱れる程急いで来てくれた彼が愛おしいし、嬉しい。

年末からこれまで会えなかった辛さだとか寂しさは一気に吹っ飛んでしまった。

リビングへ招き入れ、彼に座る様に促す。

コーヒーでも淹れましょうか、と立ち上がり彼に微笑みかけると僕の袖を掴んでふるふると頭を横に振った。

どうしたのだろうか、と彼に目線を合わせる為再びしゃがもうとすると、服の胸元辺りを掴んで引っ張られ、頬に軽く、ちゅ、とキスされる。

そして、そのままぎゅう、と抱きしめられれば僕はもう動けない。

「……寂しかったんだ」

そう切なげな声で呟く彼の頭を撫でてやれば、少し擽ったそうにしたが、嫌ではないらしく、僕に擦り寄る仕草を見せた。

「ごめんな、」

「え?」

「本当は、俺だけ家に残ろうと思ったんだが、妹にぐずられちまってな……来るの遅くなって悪かった」

「そんな、」

寧ろ悪いのは僕です、と言うと、違う、と彼は言ってくれる。

「だって機関絡みなんだろう?仕方ないさ」

「でも……あなたより機関を優先したみたいで、嫌です」

「何言ってんだ……こうして俺と……その……付き合ってるのは、機関より俺を優先してくれてるんだろ?」

違うのか?と問われる。
そんな事、当たり前じゃないですか。

「……何時だって、僕の最優先事項はあなたですよ。あなたの為なら、例え世界が崩壊しようが厭いません」

お前、それは仮にも世界を守るエスパー君としてはどうなんだ、と彼は恥ずかしげに言うが、僕のこの言葉に嘘偽りはない。

「……でさ、」

「はい?」

「……お前は、俺が居なくて平気だった?……その、寂しかったか?」

「え……」

寂しくなかった、なんて言えば嘘になってしまう。
勿論、平気だったか、と問われて、平気でした、なんて言っても嘘だ。

携帯の待受にしてある彼の写真と何回見つめ合った事か。
しまいには、写真に向かって語りかけてしまう程の重症であった。

しかし、そんな事を言ってしまえば、彼は恐らく呆れるだろうし、困らせてしまうだろう。

何としてもそんな事態は避けなければ。
そう思った僕は、ついつい、

「少し寂しかったですけど、平気でしたから」

僕の事はご心配なさらず、と言うと、さっきまでの甘えたがりな彼は何処へ行ったのか、ふい、と体ごと逸らした。

……拗ねてしまったのだろうか?

こんな時でさえ、ああ、後ろ姿も可愛らしくて抱きしめてしまいたい、なんて考えあまつさえそれを実行に移す僕は無神経だろうか、それとも恋は盲目、というやつか。
彼の心さえ見えないのは如何な物かと思うが。

「キョンくん、拗ちゃいまし……いたたっ」

……手の甲を抓られた。

「くっつくな、馬鹿古泉」

「さっきはあなたからくっついて来てくれたじゃないですか」

「うるさい」

これは完全に拗ねてしまいましたよね。
ああ、でも拗ねてるあなたも可愛いです!……ではなくて!

どうすればいいのでしょう、とおろおろする僕を見かねたのか、彼は僕の方を向いてくれ、にこ、と笑ってくれる。

……いや、全然目は笑ってないですけどね?

「俺が居なくても平気だった、って事は、俺は必要ないって事か?」

「な……!僕にはあなたが必要です!」

こんな言葉を口にしたのは中学の英語の訳以来だ。
実際使う時が来るなんて思ってなかったですよ。……当時は。

でも、あなたが居てくれるなら僕はどんなクサい台詞だって言えてしまうのです。

「本当にそう思ってるのか?」

「はい……!」

「じゃあコンビニでアイスでも買って来い」

「はい!……え?」

「これでさっきの言葉は許してやる」

……よく分からないがこれで機嫌を直していただけるのだろうか。あなたの為ならそれくらいお安い御用だ。

しかし、冬にアイスは寒くないだろうか?
寒い、と言いつつアイスを食べる彼を想像すれば……勿論可愛いけれど。
かくいう僕だってこたつでアイスを食べるのは好きだったりしますしね。

そんな事を考えながら、財布をズボンのポケットに入れ、上着を羽織ろうとすると。

「あ、上着は禁止だからな?」

と、にこ、と微笑まれる。


……だから目が笑ってませんってば。








徒歩5分足らずと、割と近くにコンビニがあるので幸いだった。
……やはり彼もその辺は考えて言ったのだろう。
罰にしては優しすぎる、可愛い我が儘にくすりと笑ってしまう。

コンビニに入り、早足でアイスコーナーへ向かう僕を店員さんは不思議そうな顔で見ている。

それはそうだろう。端から見れば、上着も着ずにアイスコーナーへ直行するなんてどれだけアイス好きなんだ。
涼宮さんにでも目撃されてしまえば、不思議の対象として見られそうだ。

ガラスケースの上からアイスを眺める。

ふむ……冬の定番といえば雪見だいふくでしょうか。
しかし、パピコもいい。
彼があれを食べる姿を想像してみれば、なんて可愛い事でしょう。
……よし、これにしましょう。

パピコを一つ手に取り僕は会計へ向かった。








「それにしても……寒いですね……」

こんな中を彼は家から走って来てくれたのか、と思うと胸がきゅんとして、愛しい気持ちが込み上げてくる。

寂しかったんだと、ぎゅう、と抱きしめてくれた彼のあの温もりが蘇る。

ああ、早くあの温もりが欲しい。

そう思って、走って帰ろうとすると、


「あ……」


薄着の彼が、そこに立っていた。


「迎えに来て下さったのですか?」

「……まあ、な」

「そんな恰好では風邪引いちゃいますよ?」

「お前がな」

くす、と笑えば自然に繋がる手。
ああ、温かい。

温かいけれど。

「もっと温もりが欲しい所ですね」

「なんだ、俺の手は不満か」

「違いますよ、ただ……」

もっとあなたの温もりを感じたいんです、と言えばぎゅう、と抱きしめてくれる。

「あ、の……キョンくん?」

「ん?」

「ここ、道端ですし……」

「寒いんだから、外に居るやつなんて少ないだろ」

元々田舎だしな、と彼は言うけどそういう問題じゃない気がする。

いえ、決して嫌ではないのですが、なんというか。

「……あなた、キャラが少し違いません?」

キョンデレは大好物ですけど、と言えばおでこをぺちんと叩かれた。確認。何時もの彼だ。

「お前なぁ……折角俺が恥を忍んでやってやったのに、少しは嬉しそうにしろ」

「……嬉しすぎて、逆に戸惑ってしまったんですよ」

何だよそれ、と彼に笑われた。

離れるのは名残惜しかったが、一端離れて、その代わりにもう一度しっかり手を繋いだ。








家に着いてから、疑問に思っていた事を彼に訊いてみた。

「そういえば、さっき上着の着用を禁止したのには、何か意味があったのですか?」

う、と彼は言葉を詰まらせる。
別に、と言って話を切り上げようとする彼は、意味があってやった事であると言っているようなものだ。

「いいじゃないですか。教えて下さいよ」

「……仕方ないな」

彼は笑うなよ、と言ってから話し出す。

「俺は古泉に会えなくて寂しかったのに……お前があんな事言うから」

「……すみませんでした」

「お前にも、俺が必要だって思わせてやりたかったんだよ。……こうやって、」

そう言うと、真っ赤になっている顔を隠す様にぎゅう、と抱き着いてくる。彼の体温が心地良い。

「あったかい……です」

「……だろ?」

俺はこんな事しかしてやれないが、なんて寂しげに呟く彼を強く抱きしめる。

「……あなたが、居てくれるだけで、僕は幸せなんですよ」

どんな温もりよりも、彼のこの体温が一番心地良くて、愛しいんだ。

僕には、あなたが居ないとだめなんです。

だから――……

「……今年も、よろしくお願いしますね」

「……ああ」

胸の中で、小さな声でよろしくな、なんて呟く恋人と今年も幸せに過ごせますように、と僕は祈った。








__________

2010.01.05

明けましておめでとうございます!

話のネタは、上着も着ずに30分程外に居た時、妄想して萌えで寒さを凌いでたネタです(笑)
なんか話が妄想の時と変わった気がしたけど。
取り敢えず古泉、私にもキョンを貸して下さい←

コンビニのアイス好き〜〜の辺りで某青いおにいさんを思い出しました(笑)
ぱぴこはまた別で書きたい。
あれには萌えが詰まってると思う。

皆様、今年もよろしくお願いします。






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