交わる線 5
「…こんにちは」
とりあえずにこりと微笑んでみた。硬い表情は変わらないが、しかし雰囲気が少しだけほぐれた気がする。
「あたしたちを助けてくれてありがとう。…そのお礼よ、これは。」
「どこの子かは知らないけど、その服じゃ帰れないでしょう?…ここにはろくな物がないから、上質なものは…ごめんね。」
そう言って差し出された服は確かに麻色でほつれているが綺麗にされている。
「…ありがとう、お姉さん」
ぱっぱと手で体の水気を弾き飛ばし、服を着る。ごわついているけれど妥協範囲だろう。スラムのあの服に比べればすべて上質な服だ。それにあれは服というよりもはや布だろう。ほの暗い赤色に染まっている服を固く絞り、後ろ手にバッグを具現化してそこに入れる。
…今更だがオレは全裸だ。まあ少年の裸を見てもどうということはないだろうが。
立ち上がりふと気がつく。妙に丈が長いと思えばこれはワンピースじゃないか。
…そんなに、女顔だろうかと自分の顔をぺたぺたと触る。短パンは恐らくスパッツ替わりに、ということなのだろう。まあいいかと諦めてバッグを肩にかける。
お姉さんたちが外まで送ってくれるというので素直についていく。
…男の無残な死骸を足蹴にしていたのを見た時はいったいどれほど恨まれていたのかとぞくりとした。
それじゃあ気をつけて、と丁寧に駅まで送ってくれた。町を歩いていた時はチクチクと視線が突き刺さりあまり居心地がいいとは言えなかったがまあいいだろう。
オレはやるべき事をやっただけだ。服に関してはまあ…うん。
列車に乗り、体を伸ばす。コキコキとなる背骨。誰もいないのをいいことに大口を開けて欠伸をする。
ふと目に入った自分の髪。セミロング程度の長さではあるが後ろで一括りにしてるしスラムでは髪が長いやつなんて腐るほどいる。
エドァルドも髪が長い。あいつの妹のミラよりも長い。ジャックはミラと見分けがつかなくなるから、とそういう理由で短くしている。
いっそ切ろうか、と考え、左側のある程度の長さから伸びない謎の横髪を触る。
耳上からハサミで乱雑に切られたようにそこだけ伸びない。何故だろうと考え、ふとクロロの顔が浮かびまさかな、と首を振る。
真っ赤な夕焼けに染まるオレの手を見ながら報酬は弾んでもらおうとぼんやりと考えた。