カスタムフラッグのコックピットで、グラハムは燃え盛る太陽光受信アンテナを無念の思いで見ていた。
警戒していたにもかかわらず、受信アンテナを破壊されてしまった。
グラハムは眉間に皺を寄せ、僚機に乗っているハワードとダリルに指示を出す。
「ハワード、ダリル。ミサイル攻撃をした敵を追え。ガンダムは私がやる」
(もしかしたら、彼女に会えるかもしれない)
彼女――惺・夏端月と。
うっすらと、頭の隅でそう思った。惺の微笑を思い出す。

ゲームは続いている。


「待ってろ、惺」







「おいおい…ユニオンはアザディスタン防衛が任務じゃないのかぁ?」
ロックオンはうんざりとした表情で呟き、モニターからユニオンフラッグカスタムを映し出した。
そして苦笑いを浮かべる。
「やっぱり俺らが目当てかよ。しかもフラッグ一機で突っ込んでくるとは…」
ロックオンはスコープシステムをセットして接眼用モニターを覗き込んだ。
「狙い撃ちだぜ!」
が、デュナメスの放った赤いビームはかわされた。フラッグの機体が飛行形態からモビルスーツへと変形したのだ。
「なっ…!?ハロ!」
ロックオンは驚きを隠せない。
「二度目はないぜ!」と再び放った閃光も、瞬時にかわされてしまった。
「俺が外した!?なんだこのパイロット!?しかも空中変形とは!」
「人々からはこの変形技、“グラハム・スペシャル”と名付けられている!」
両者がコックピット内でそれぞれ叫ぶ。
お互いに誰が誰だか分からないまま、武器を交える。その様子は常人を遥かに超越していた。
カスタムフラッグがガンダムに急接近。そのままの勢いで蹴りを入れようとした刹那、
――シュン…っ!!!
と、二機の間を眩い閃光が駆け抜けた。
両者はそれに動きを止め、咄嗟にその閃光を放った人物を捉えた。
「惺…っ!」
思わず名前を呼ぶロックオン。惺は無言で二機を見据えた。
脳裏に過る過去の戦場。
何時まで経っても、人間はこの苦しみを繰り返しているだけ。
惺は何だか悲しくなった。
再び弓を構える。
(フラッグ…今度は外さない)
しかし、

『惺っ!惺だろう!』

フラッグの外部スピーカーから声が響き渡る。
惺はそのムカつくくらい聞き覚えがある声に、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
(グラハム…エーカー…?)
つい最近、聞いたその声。
凛とした声。真っ直ぐな瞳。
『惺!私だ!わかるだろう!』
戦場に響く、グラハムの声。
その声が、空気を震わせ、鼓膜へと届く。
「どう、して…」
何故、数機あるガンダムの中で、このベリアルに惺・夏端月が乗っているのだと気付いたのだろう――操縦桿を握りしめながら思う惺。
「…つくづく面白い奴」
嘲笑と共に呟いた科白は誰も知らない。
再びGNアローを構える。そして矢を放った。
「……っ!」
フラッグは既[すんで]のところでかわす。
『…惺…っ!!!』
まるで、戦いたくないと、言うように。


その時、空気を切り裂くかのように通信コールがコックピットに響いた。
「緊急通信!?」
『…――アザディスタン軍、ザイール基地よりモビルスーツが移動を開始。目的地は王宮の模様。全機、制圧に向かってください…』
グラハムは耳を疑った。
「クーデターではないか…!」
唇を噛む。思わず呟いた。
「ようやくガンダムと巡り逢えたというのに…!」
(それに…惺にも…)
グラハムの視線の先には日の光を浴びて輝いているガンダムベリアル。
君を、ソレスタルビーイングから奪い、私のものにしてみせると、決意したのに―――彼女は一筋縄ではいかないらしい。
「…………っ」
後ろ髪を引かれる思いだったが、取り敢えずクーデターを制圧するのが優先だ。
グラハムは後方より視線を外して、アザディスタン首都へと向かった。


『…――また会おう、惺』


その言葉を投げ捨てて。




2012.12.04修正



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