『国際テロネットワークの正体は、欧州を中心に活動する自然回顧主義組織ラ・イデンラ。活動拠点は三ヶ所。今データを送ったから確認して』

ミス・スメラギの声がデュナメスのコックピットに響いた。
俺――ロックオン・ストラトスはコントロールパネルを操作してデータを表示させた。デュナメスの担当は南米のアマゾンの河流域にある拠点だった。
ベリアルの担当も同じだ。惺は俺から少し離れた場所で待機している。
「待ち侘びたぜ…」と思わず口端を歪めた。
テロリストを許して堪るか。
俺から全てを奪った、テロ行為を続けさせて堪るか。

『グリニッジ標準時1400に同時攻撃を開始します。敵戦力は不明。モビルスーツを所有している可能性もあるわ。気をつけて』
「了解」
『了解』
素早くパネルを操作すると、デュナメスをスリープモードから通常モードへと起動させた。そこで、今回共に出撃する惺の様子を一度確認する。
(…惺、)
胸の内で彼女を呼ぶ。
まるで、戦う勇気を貰うように。彼女を思った。
彼女を見ていると、やる気が出てくるのは何故だろう。
その答えに、鈍感ではない俺は気付き始めている。
(だけど、俺は、)
『…ロックオン』
突如、名前を呼ばれる。
想いを馳せていた彼女が自分の名前を呼んだ事に僅かな喜びを感じつつ「何だ?」と表面では至って平生を装って答えた。
(惺みたいに上手くポーカーフェイス出来たかな…)
『…いや…、ただ、お前が呼んだ気がして…』
彼女の科白に俺は思わず目を見開いた。
彼女は、人を嫌っているようで、本当は誰よりも優しい。
誰かが求めている時に、欲しい言葉を投げ掛けてくれるんだ。
俺は知っている。
何も言えない俺をモニターの向こうから真っ直ぐ見ている惺。その瞳に吸い込まれそうだ。
暫く画面越しに見詰め合った後、惺が『…気のせいだった。悪い』と謝った。
そのまま会話を終了させようとした彼女を、咄嗟に「待って」と制した。
『………?』
怪訝な表情で俺を見詰める。
そんな彼女に微笑みかけた。
「惺、」
『なんだ』
「この間の苺の飴、買ってきたんだ。これが終わったら、一緒に食べような」
モニターの向こうで、彼女が『ふ、』と笑った。

『楽しみにしてる。…―――ベリアル、惺・夏端月、行きます』

「デュナメス、ロックオンス・トラトス、出撃する!」

惺から勇気を貰い、俺は漸く戦いに行けるんだ。
テロなんて怖くない。テロなんて無くして見せる。
(大丈夫、きっと)
この憎しみで潰れそうな心に、真っ白な手を差し伸べて。
お前は独りじゃない、と、彼女の瞳は云った気がしたから。









それは、深い水底に溺れて行く感覚によく似ている。


『…―――――…』

『父さん、その歌何?さっきから歌ってるけど』
『これは昔からある戦争の歌だ。戦争に打ち勝ち、平和を掴み取る。素晴らしい歌だ』
『ふーん…』
『“   ”』
『ん?』
『お前には、その年にも関わらず、保守派の一員として会合にも出席してもらって悪いと思ってる』
『別に、気にしなくていいよ』
『…お前には、もっと良い人生が在ったのかも知れない。保守派に居れば、何時命を落とすか分からない』
『覚悟はしてる』
『…すまない…お前を巻き込んで…。お前は惺ちゃんと一緒にかくれんぼでもしている方が似合うのにな』
『………。』
『ごめんな、“   ”。』



…――あの後、父さんが何を言ったのか、おれが何を言ったのか、全く憶えていない。
ただ、思い出すのは、愛しい裏切り者と過ごした時間だけ。
全てを忘れたと言うのに、不思議と彼女に関する事だけは鮮明に憶えている。自分の事よりも憶えている。
「惺」
唇は無意識に彼女の名前を紡いだ。

「おれを、許して」

この罪は、簡単には償えないけれども。
苦しんで生きて、
世界を変える事が出来たら、
少しでも許してくれますか。

(浅ましくも、願う。)



2012.12.04修正



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