外に出たはいいが、特にすることがなかった惺。スケボーやバスケをして遊ぶ少年達の横を、無表情で通り過ぎる。
(腹減った…)
そんな事を考えてると、いつの間にか人通りのない裏路地へと迷い込んでしまった。
「………………。」
(…そう言えばこの辺りは来たこと無いかもな…)
一瞬、どうしようか、と思ったその時だった。
「おほぉ…綺麗なねーちゃんじゃねぇか!」
「ホントだ、俺達ツイてるな!」
不意に聞こえた台詞。それに惺はゆっくり冷静に振り返る。黒人と白人…全部で三人。
「………………」
惺は何時もの如く無言で見据える。惺の仲間達であったなら、彼女が寡黙で人と関わることを嫌っていると知っているから、無表情や無言でも彼女に苛ついたり怒ったりすることはない。しかし、今会った男達は惺を全然知らない。
男達にとっては、どんな形であれ好意を持って話しかけたのに、無言で無表情となると逆に怒りに似た感情が浮かび上がってくる。
「ちょぉ…ねーちゃんよぉー」と一人が威嚇の意を込めて惺に近付いた。その瞬間だった。
「おれに……近寄るな…!」
―――ゴッ…!
と鈍い音が響き渡り、男はノックダウン。惺は殴った左手をブンブンと振る。
(右手じゃないだけありがたいと思え)
「お、女アアアア!!!!」
その様子に一斉に飛び掛かる男の仲間。
惺は溜息を吐き出し、臨戦体制。
――しかし、予想していた攻撃は惺まで届かなかった。


「…――キミ達、女性に手をあげるとは、どういう神経をしてるんだい」


「う"あっ!」
惺は突然割り込んできた人物を見る。男達の腕を捻り上げながら「大丈夫かい?」と問い掛けてきた。
金髪が眩しい。見たところ、結構年上のようだ。
正直、一人でもこいつらを懲らしめる事は出来たのだが、面倒臭い惺は言わない。
目の前の男は、惺が恐怖感から喋れないのだと勘違いし、更に強く男達を捻り上げた。
「アアアア!」と不快な叫びが辺りに響いた。
すると男は「流石にやり過ぎたな」と呟いて両手を離した。
ナンパ男達は、惺のパンチにより意識を失った仲間を抱えながら情けなく逃げて行った。
「大丈夫かい?」
二回目の台詞。
惺はゆっくりと首を縦に振った。その様子に男は何か違和感を覚える。
(この感じ…どこかで…)
対する惺は、一刻も早く一人になりたかったらしく、助けてくれた男に「ありがとうございます。では」と無愛想に告げて歩き出した……のだが、
――ガシッ。
右手をがっしり掴まれた。惺は眉間に皺を刻む。
不機嫌さが伝わったのか、男は咄嗟に手を離し、謝った。
「すまない!つい…」
「…………………………」
男の謝罪の言葉に、怒るでも怖がるでもなく無言で返す惺。
男は再び変な感覚に陥った。
(なんだ…これは…)
なんだか徐々に居心地悪くなってきた男は、気を紛らわすように「あー…私はグラハム・エーカー」と告げた。
「…………………。」
なおも無言の惺。男――グラハムは愈々困った表情を浮かべた。
「キミの名前は…?」
惺はゆっくりと視線を逸らし、「撫子」と、いざという時の為に用意していた偽名を告げた。
「ほぅ、撫子…か、よかったらちょっと付き合ってくれないか…?」
(ま、まじかよ…)
こうして、お互い敵同士だと分からぬまま、奇妙なデートは始まる。
「………………。」
「………………。」
「………………。」
惺とグラハムは終始無言だった。
惺はグラハムが何故デートに誘ったのか疑問を抱えながら、先程見たバスケットで遊ぶ子供達をぼーっと見ていた。
グラハムはその惺の様子を見つめる。
(なんだこの感じは…彼女とどこかであった気がする…)
ゆっくりと彼女を確認する。無表情、無言。正直グラハムは彼女が何を考えているのか全然分からない。
全くといっていいほど感情が読み取れない。
(ん…?感情が読み取れない…?)

『ほぅ!もう一機いたのか!ガンダム!』

グラハムの脳裏にある光景が浮かび上がる。彼女は奇妙なほどあのガンダムに酷似していた。
(まさか、な…)
一瞬、彼女がガンダムのパイロットじゃないかと疑うが、こんな若い子、しかも女性は有り得ないなと考え直し、首を振る。

その時、惺のポケットから携帯端末が鳴り響いた。
(…………………。)
惺はグラハムを見ながら「おれ…行かなきゃ」とこれまた無愛想に告げる。
それと対照的に、グラハムは「すまなかったな」と笑いながら返した。
惺はそれを確認すると、グラハムの元を走り去った。
(奇妙な奴…でももう逢うことはないだろう)

惺は振り返らなかった。
―――再び逢うとはつゆ知らず。




2012.10.07修正



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