「…………。」

蒼い空の下、おれはぼーっとしていた。
悲しい事に今日は仕事がない。セイロン島における紛争介入を楽しみにしていたおれだったが、感情は不発に終わった。スメラギさんからのストップがかかったのだ。更に、先日のAEUの件でロックオンに破壊活動を無理矢理止められたせいか、おれの中には発散しきれなかった衝動がまだ僅かに燻っていた。
「……………。」
(つまらない。)
さっきからそればかり考えている。何もやる事の無いおれは、ただ右手を開いたり閉じたりを繰り返す。
「…………………。」
不機嫌からか沈黙が重い。自分でも分かった。
(…我慢、出来ない)
おれは立ち上がった。そして苛々をぶつける何かを探そうとした時、
「…惺、眉間」
風のような優しい声が聞こえたかと思ったら、頭にポンと軽い衝撃。不機嫌だと悟られて更に苛々したおれは、ゆっくりと振り返る。
こんな事をするのは一人しかいない。
「…ロックオン、離れろ」
「なんだよー…、酷ぇなあー…」
科白の割には大して傷付いた様子も感じさせないロックオン。正直、おれはロックオンが苦手だ。明るいところとか、突き放しても近付くところとか……まだある。
何よりも一番苦手なのは、おれの憎悪すらその笑顔で掻き消そうとする精神。
彼は出逢った当初からそんな感じだ。
初めて会ったあの日、誰も寄せ付けないようにえげつない科白を放ったと言うのに、この男はそんなおれすら笑顔でいなした。
(どうしてうまくいかないんだ…)
彼を振り払う事が出来ない自分を内心だけで叱咤する。
そして仕方なくロックオンを見上げた。すると、彼は満足したのか微笑む。同時に右手をおれの前に差し出した。
なんだ、何か持ってる…。
ロックオンはおれの疑問に気付いたらしく、更に笑みを深くする。
「ほら。暇なんだろ?飴でも食ってな」
グーだったロックオンの手が、ゆっくりとパーになる。その中央にはピンクの可愛らしい包み。
「…………………」
おれはそれをしばらく眺めた。
こう言う時、どんな反応をすればいいのか分からない。
すると、じれったくなったのか、ロックオンは自分で包みを開き、無理矢理おれの口に飴玉を突っ込んだ。
「ん、」
一瞬にして苺の甘ったるい味が口内を支配した。
「………………。」
おれは苺よりもロックオンに意識を持っていかれていた。彼をじっと見つめる。無表情なはずなのに、そんなおれの顔を見てロックオンは嬉しそうに微かに笑った。
(…だから苦手なんだよ…)
おれは静かに思う。
…――人間を赦してしまいそうだから、
…――世界を赦してしまいそうだから、
(そんな顔で笑うな)
彼は裏切らない、そう思いたくなるような純粋無垢な笑顔。
だから苦手なのだ。
彼を信じて、彼が裏切ってしまったら、おれは今度こそきっと死んでしまう。
「…嫌いだ」
おれは呟いた。自己暗示として彼に向けたのか、世界に向けたのか、自分でもよく分からない。その言葉にロックオンは眉間に皺を寄せ、苦笑した。
どうやら、飴が気に入らないと捉えたらしい。
「じゃあ、今度は苺以外にするな」
おれはゆっくりとそっぽ向いた。
苺の味は、正直、嫌いではなかった。





「………………。」
おれとロックオンの間にちょっとした沈黙が生まれた刹那、おれはなにか変な感覚に陥った。
(…なんだ、この嫌な感じ)
何処かで感じた事がある。誰かがおれを呼ぶ声。誘うように瞳が訴える。
「…惺?」
ロックオンの呼びかけに、おれは跳ね上がるように立ち上がった。
今、行かなければ後悔するかもしれない。
「惺、どうした?」と問い掛けるロックオンに「…おれ、行ってくる」と呟き、ガンダムベリアルのもとへ走り出した。
「おい!惺!」
止めようとする彼を振り切る。「すぐ帰ってくる」と言葉を投げる。彼はそんなおれがもうどうにもならないと悟ったのか、苦笑を浮かべて「ったくよぉ…」と呟いた。

「ちゃんと帰ってこいよ…。俺の所に。」

おれは背中を向けたまま、彼に聞こえるか聞こえないかの声量で「ああ」と答えた。


「…ガンダムベリアル、発進する」





2012.10.07修正



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