この光景を見るのはもう何度目だろうか。
何回繰り返しても慣れない恐怖と怒り。
そして絶望。
左手が戦慄く。持っている“それ”がただ冷たくおれを責める。
撃つのか、撃たないのか、と。
(この先の展開を知っていると言うのに。)
『…―――何 、お前 …』
『私が  よ、“   ”』
『嘘だ…』
『私は…革 派 統  娘。あな を わす為 此処に  れた よ。』
『           っ!!!!!』
『ねぇ、“   ”。私の をあげる。私が  でもずっと を忘  いで』
『ああ…。ずっと忘れないさ…。お前を   感覚全て忘れ  刻 込む。その記憶 糧に  は世界 ぶち壊し やる』
『あら、物凄い野望ね』
『 して たのに…』
『…………。』
『この世界 醜 から、お前 歪ん  まった』
『……可哀想な“   ”。』
『畜生!!!殺してやる!!!!』
“それ”を彼女に向けた。憎悪と絶望を込めて。
お前もおれと同じ苦しみを味わえばいいと。
『     。』
彼女は微笑んだ。




『…―――月が…綺麗ですね…。』







そんな目でおれを見るな。









「………………。」

寝起きは最悪だった。
とても嫌な夢をみた。
過去の記憶。忘れようとしても、おれを追い立てて離さない記憶。
おれは頭を掻いた。変な汗をかいていて気持ち悪い。
過去が悪夢となっておれに襲い掛かる事は屡々あったが、あんなに鮮明な夢を見たのは久しぶりだった。
左手だけでなく、義手の右手までもが震えている。
(情けない…。)
夢だと言うのに。
持った拳銃の重さとか、
引いたトリガーの感覚とか、
彼女の表情とか、
何も感じないはずなのに。
(おれは……)
今度は両手で頭を覆った。
無性に叫びたくなった。何かを殴り付けたくなった。

『私は…革 派 統  娘。あな を わす為 此処に  れた よ。』

彼女の声が聞こえる。
呪いの言葉のように、幾度も幾度も聞こえる。
強く瞳を閉じ、膝を抱える。消えない呪い。
おれの身体と心はその呪いに反応するように憎悪を増していく。
(忘れるわけない…、こんなにも全てが憎い…。)

「…―――惺!」
「っ!」
思考を切り裂くように、いきなり響き渡った呼び声。
それにビクリと過剰反応してしまったが、悟られないようにしながら咄嗟に平生を装い、ゆっくりと声の主を確かめる。だいたい見当はついている。
頭を上げると、困った顔のロックオン。おれはいつものように無表情で見据えた。しかし、上手く出来ただろうか。自信が無い。
「惺…ミッションの時間なんだが……、何かあったか?顔色が悪いぞ」
何処か心配そうな表情で告げた彼。やっぱり見抜かれた。おれは今度こそ無表情を崩してしまった。
(思い出したくない)
彼女の声を掻き消すように、ロックオンの声で上書きする。
悪夢は数年経った今もおれを離してはくれない。
まるで、罪を背負って生かされているよう。
(どうしておればかり苦しまなければいけないんだ)
おれは悪くない。
そうさせた世界が悪いのだ。


世界がおれを嫌うから、おれも世界を嫌う。


それの、何が悪いと言うのだ。







『…――ベリアル、何時でも発進できます』
ロックオンと刹那に通信を入れる。久しぶりにガンダムに乗れたと思ったら目的は人命救助。
低軌道ステーションの中央――リニアトレインの発着ロビーを人革連のイカれた機体が発砲したらしい。弾丸が、重力ブロックの一区画を支える支柱に当たり、衝撃でちぎれ飛んだらしく、小ブロックのうちの三つが円環から離れて宇宙に漂流している、と。
おれは溜め息を押し殺す事すら止めた。
(放っておけばいい。どうせ世界は滅びる)
どうしてもやる気が出ない。
どうしてこんなことしなければならない。
(自分達が撒いた種なのにな)
夢のせいもあって、いつも以上に機嫌が良くない。
(……はぁ。)
横目でエクシアを見ながら、声にならない溜息をつく。
過去の光景がフラッシュバックして止まない。
忘れるな。
彼女が、人間が、世界が、おれが、犯した罪を、と。
同時に、握っているのは操縦桿のはずなのに、拳銃を持っているような錯覚に陥った。
「…ふ、」
思わず嘲笑を浮かべた。

頭の中で誰かが囁く。




…―――こんなものなど、早く壊してしまおう、と。




2012.11.24修正



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