「…つまらない」

珍しく惺が言葉を発する。もし、この場にスメラギがいたとしたら、「雨でもふるんじゃないかしら」と言っていたかもしれない。しかし、そんな彼女はここにはいない。
今、惺がいるのはガンダムのコックピット。
AEUのイナクトを撃破し、ガンダムの存在を世界に知らしめるというファーストフェイズを終了し、現在はセカンドフェイズに移ろうといている。
が、ソレスタルビーイングの初陣だと言うのに、惺には大したミッションも無く、ただのサポートへと回された。
(本当につまらない)
惺はうっすらと思った。スメラギさんのことだから、おれを前線に出せばやり過ぎると見抜いているのかもしれない、と。
非情に、無情に、無表情に、無感情に、人間らしさを捨てて機械のように成りたいとは思っているが、どうしてもこの狂おしい程の憎悪は隠せないらしい。
(世界を壊す為にガンダムマイスターになったのに…)
彼女は手持ち無沙汰に周りを見回した。彼女のガンダムであるベリアルの隣には丁度ガンダムデュナメスが同じように並んでライフルを構えている。
所々に深い緑をあしらっている彼のガンダムは、燃え盛る赤を基調にしているガンダムベリアルと対照的で、それが逆に絶妙な組み合わせのように見えた。
「つまらない」
半ば無意識に口から出た。今度は先程より大きな声で。
すると、突如モニターが現れ、ロックオンが映る。惺は開きかけた口を途端に閉ざした。
「なんで俺が出ると口を閉じるんだー?」
笑みを浮かべながら陽気に話し掛けるロックオンに、惺は眉間に深い皺を刻んだが、何も返さなかった。
彼は出逢った当初から何かと構ってくる。
誰か(そこはよく覚えていないが、もしかしたら本人かも知れない)から聞いたのだが、彼には妹がいたようだった(過去形であることに疑問を覚えたが、色々とあるのだろう)。
おそらく、その妹と自分を重ね合わせているのだろう、と惺はうっすら思っていた。
(全くもって、迷惑な話だ。)
「人間は嫌いだ」
「そう言うおまえも人間だろ?」
独り言としてポツリと吐き出したはずだったのに、即座に返された科白。惺は更に眉間に皺を刻む。
「おれは……人間なんかじゃない…」
そしてゆっくりと呟いた。
「ロックオン・ストラトス。おまえは何も知らない」
過去の争いによってサイボーグと化した自らの右半身を見た。
右腕も、右脚も、内臓の幾つかも、一気に失った。偽物の機械を埋め込み、普通の人間を装うその姿は滑稽なこと此の上無い。そしてそれはまるで「苦しんで生きろ」とでも云うように冷たい。
ロックオンは何も知らずに続ける。
「惺が教えてくれないからだろ?」
困った表情を浮かべる彼に、やっぱり彼は苦手だ、と再確認して「おまえが人間だからな」と呟いた。
(人間は汚い。それでいて醜い。)
彼だって、きっと崩れる。
絶望の底を垣間見た時に、その無垢な思いを貫くことが出来るのか。
「もう、話し掛けてくるな」
ピシャリと一喝。ロックオンは諦めて肩を竦めて見せた。
惺は、相手がもう突っ込んで来ないと分かると、シートに深く座り直した。
(知ってるさ。おれはまだ人間を捨てきれていない)
「…………………。」
声こそ出しはしなかったが、惺は心の奥でゆっくりと溜息をついた。



「…お、刹那が来たみたいだぜ」
惺は聞こえた言葉に上空を見る。デュナメスの隣で待機を強いられているが、ロックオンの隣ということは、遠回しに惺の仕事は無いと意味している。
何かあったら全部彼がやってしまうだろうから。
(おれだって、出来るのに。)
ゆっくりと刹那のガンダム――エクシアを見た。
空で派手に破壊活動をしているエクシア。彼のあの行動だって、自分のしたいことと変わらないのに。
(壊したい、全部)
生まれた衝動は止まる事を知らない。分かっている。これは嫉妬だ。惺のその目は鋭く細められる。
「おれだって、殺したくて…うずうずしてる…。こんなにも…憎いのに」
今度は声に出して言った。
言葉とは全く不思議なもので、一度声に出してしまったら、どうしても衝動を抑え切れなくなる。
寡黙な惺は尚更。
眉間に寄った皺を戻し、何時ものポーカーフェイスに戻ると素早く操縦桿を握った。
ギギギ、と右腕の内部で金属が軋む音がする。
(ああ、おれは…)
恍惚に似た何かを覚えた。
(全てを壊して無に還す)
「惺!」と呼び止めるロックオンの声が聞こえた気がしたが、もう知らない。
(ケダモノでも何でも言うがいい。)
ただ、この衝動だけは、もう止められないから。



「ガンダムベリアル、目標を殲滅する」


空を切り裂くように、勢い良く空に飛び立った。






2012.09.26修正



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