「惺、ロックオン、お帰りなさい」

トレミーに帰るなり温かい表情で迎える一同。ロックオンはそれに「ただいまー」と爽やかに返事。一方惺は、地上で手に入れた黒くて大きいケース(中身はロックオンも知らない)を片手に無言で目を逸らす。まるで「くだらない」とでも言うように。
「あー!!惺また無視したぁー!!」
クリスティナが大声で叫ぶ。
しかし、怒りからではない。彼女は長年の付き合いの仲間はそんな無愛想な惺をよく知っていた。
慣性の法則を利用して抱き着こうとするクリスティナをひらりと交わす惺。もう日常茶飯事である。
(あ、ケースが…)
内心で焦りながら、くるりと方向転換。自室に向かおうと床を蹴る。
「ちょっと惺ー…!!」
「惺、反応くらいしてやれ」
残念そうなクリスティナ。それに反応するかと思いきや、その後に投げられたロックオンの言葉に惺はピタリと動きを止めた。しかし決して罪悪感を覚えた訳ではない。
気まずいわけでも気楽なわけでもない、妙な沈黙が流れる中ゆっくりと振り返る。しかし瞳はクリスティナにではなく、ロックオンに向けられている。
(………。)
その刹那――交差した視線。
ロックオンはそのポーカーフェイスを見つめる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、何も映していない惺の瞳の奥に、燃え盛る憎悪を垣間見た気がした。
(……惺……)
惺はそのまま何も言わず移動する。もう振り向きもせずに。
背後から再びクリスティナの声が聞こえたような気がしたが、惺にはもう関係無かった。

(――くだらない)
その一連のやり取りに、惺は内心で吐き出した。

人間が大嫌いだから殺そうとしているのに、その人間と馴れ合うなんて返吐が出る。
ぎり、と右手を強く握った。金属が軋む音が聞こえ、脳に響いた。一瞬、壊れてしまうのではないかと焦る。
「はあ…」と溜め息。そして宙を睨んだ。

「人間なんか、大嫌いだ」

もう数え切れない程吐き出したその台詞を紡ぐ。

(でも…、おれは…)


「人間の心を捨て切れてないおれが一番大嫌いなんだ」


その瞳には、再び憎しみの炎が燈った。




2012.09.22修正


- 4 -


[*前] | [次#]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -