「おーい…惺ー…」
場所は、地図にすら載っていない小さな島国にて。
ガンダムマイスターの年長であるロックオン・ストラトスは、目の前をツカツカと歩く彼女の背中に呟いた。彼女――惺・夏端月は何も返さない。
少々つれないが、ここは長年の付き合いのロックオン。彼女が人と関わり合うのを極端に嫌うのを分かっていた。
「はぁ…」
ゆっくりと溜息をついたロックオン。決して隣を歩いてくれない彼女の後ろ姿を、何とも言えないじとーっとした視線で見つめる。

今、こうやって惺と一緒にここにいる理由は、どうやら彼女に何か用事があったらしく、それの付き添いにロックオンが抜粋されたからだ。
一人で行きたいと言い張る彼女を戦術予報士のスメラギがどうにか説得し、ロックオンを付き添わせたのだ。
ロックオンは寡黙な彼女が苦手だった訳ではなく、寧ろ好意すら抱いていたので二つ返事で引き受けた。
寡黙といえば、仲間である刹那・F・セイエイも寡黙である(だが二人は何故か仲が良い)。
が、目の前の彼女は彼以上に語らない。惺に出会って数年が経つが会話だってろくにしない。一日に一言話し掛けてくれたらラッキーな方。
(もっとも、ロックオンは屡々一方的な会話をしに行くが)
しかし、ロックオンは気付いている。
惺は自ら人と関わろうとはしないけど、そのかわり、好意から近付いてくる人を冷たく追い返すような人でもなかった。
「…――人間なんか大嫌いだ」
これは彼女がよく呟く科白だ。
綺麗な声をしているのに、なんて物騒な事を吐くのだろう、と何時も思う。
惺の過去に何があったのかは分からない。しかし、彼女をここまで狂わせる何かが過去に絶対あったに違いないと、ロックオンは考えている。
その呪縛から、解き放ってやりたいとは思うが、如何せん彼女は過去の事は話さない。話さな過ぎる。
(…どーすれば、いいのかねぇ…)
彼女と初めて会った日を思い出して、ロックオンは一人苦笑を浮かべた。
あの頃よりかは、幾分かマシかも知れないが、仲良くミッションをこなし、過ごせるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
風に揺れる惺のサラサラな黒髪を流し目で捉えながら、ロックオンは歩き続けた。
寡黙で、無愛想で、無表情な彼女だが、
この争いだらけの世界を変えることが出来たら、彼女の笑顔は見れるのだろうか――…

そんな淡い期待と不確かな未来を想像しながら。


ロックオンの視線の先の彼女、惺は今日も遠くを見つめる。




2012.09.17修正
2012.12.13修正



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