ギャラルホルンにて。
私はガエリオとマクギリスに向けて言葉を吐きだす。
「…ねえ、これって何て言うか知ってる?」
「さあ、分からないなあ、ナルバエス一尉」
「…職権濫用って言うんですよ。ボードウィン特務三佐、ファリド特務三佐」
はあ、と、思わず溜息をついた。よりによってこのルートできたか。
何十回、何百回、と、時を巡ってきた私だったが、今回のように、ギャラルホルンで、直属の部下に異動させられるルートがきてしまった場合、ろくな事にならなかったのが殆どだ。
このマクギリスは厄介だ。
自分とガエリオの直属の部下に私を置くという事は、時が来ればいつでも二人まとめて消すことが出来るという事だ。
先が思いやられる。頭が痛い。けれど、ガエリオと一緒にいる時間が多いのは正直嬉しい。

「君はガエリオには会っておいて、私は後で良いと言ったそうじゃないか」
「会って何するの。今会えたんだから別に良いでしょ」
「毒舌なのは変わらないな」
「でも俺の時より二割り増しくらいで口が悪い気がする」
(あのね、それは思っていても言ってはいけないよガエリオ)
だいたい、このマクギリスが私の愛している男を殺すと言うのに、これからどうやって仲良くしろと言うのか。もう、何も知らなかったあの頃とは違う。私は、全て知ってしまったんだ。もう、あの頃のようには戻れない。
密かに溜め息。
そんな私の心境などつゆ知らず、ガエリオは「これからよろしくな」なんて言って呑気に笑う。その顔を見たら、難しい考えは一瞬にして頭からぶっ飛んでしまった。
(ああ、もう、好きだ…)
さっきまでちょっと不機嫌だったのに、彼の笑顔ひとつで一気に機嫌が良くなる。我ながらゲンキンだ。

「はあ…なんで…こんなことに…」
これからどうすれば良いのか、後でゆっくり練る必要がある。特に、今後、このまま私が経験した通りに行けば、私は高い確率でアインに出会うはずだ。彼とどう接するかも重要になる。
最悪のパターンだけは避けたい。

難しい顔をしている私を見て、マクギリスは苦笑した。
「すまないな。ガエリオがどうしてもと言って聞かなかったんだ」
「えっ?」
「おいマクギリス!」
「事実だろう?」
焦るガエリオに勝ち誇ったかのような笑みのマクギリス。
(今の、ガエリオがどうしてもって…)
私は、予想外のそれに、全く動けなくなっていた。
(ガエリオが私を自分の下に置きたいって言ってくれたって事だよね…?)
深い意味は無いのだろうけど、妙に胸がザワザワしてしまう。変な期待はしてはいけない。
(それに、私は、)
と、そこまで考えて、ダメだ、と中断する。

密かに混乱している私を他所に、ガエリオとマクギリスはしばらく言い合っていたが、ふと、思い出したかのようにガエリオがこちらを向いた。
「あのな、シン、ほら…、その、あれだ」
「…、?」
「お前、俺が会いたい時にはいつでも会うって言ったよな?」
「…言ったけど…」
それがどうしたのだろう、と思った瞬間、彼はとんでもない爆弾を放った。
「いつでも近くにいて欲しいから、俺たちのところに異動させたんだ」
「えっ?」
なに、今の殺文句…。
きっと無自覚なのだろうけど…。
「もう、あんな思いはたくさんだからな…」
あんな思い――多分、私が何も言わずに皆の前から消えた事を言っているんだ。小さく「ごめん、」と呟いた。
あの頃は、私も必死だったから、ひとつの事以外を考える余裕が無かった。
こうして幾度もタイムリープを繰り返してようやく、大切なものひとつだけではなく、複数の大切なものを守ろうとする余裕が出来た。
「まあいいさ。これからは、嫌ってくらい一緒だからな」

本当に、嫌ってくらい一緒に居てくれれば良いのに。

君は、自分がいつも私を置いて逝ってしまう事を知らないの。



2016.04.03

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